エルダー2020年7月号
37/68

高齢者に聞くエルダー35り、かつて趣味でやっていた手芸を教えたり、専業主婦の経験しかない私でも少しは人の役に立てるのだと嬉しく思ったものです。同じころ認知症友の会と出会い、会合に顔を出すうちにいつしかボランティアを引き受けるようになった。現在の職場で「パワフル勝ちゃん」と呼ばれる源はここにある。ボランティア活動を力に認知症を発症してから6年後に夫は他界しました。私は通所施設や認知症友の会でのボランティア活動をきっかけに、コーラスグループを立ち上げたり、高齢者が集う「ふれあいサロン」にかかわったりと、夫に導かれるように世界が広がりました。認知症サポーターの養成講座にも通い、認知症を支援する目印となるリストバンドの「オレンジリング」をいただき、いまも身につけています。「RランUN伴とも」※2という言葉を聞いたことがありますか? これは認知症の人が家族や支援者とともにタスキリレーをして走る認知症の啓発イベントの一つで、町田市の旧庁舎跡地が「RUN伴」の中継地点になっていました。参加者を応援するブースがいくつも並び、そのときたまたまお手伝いしたのが、スターバックス コーヒーのブースでした。私は持ち前の大きな声で呼び込みを担当、参加者にも大好評で、私自身とても楽しい時間を過ごさせてもらいました。このときのご縁で、75歳にして初めて外で働くことになるのですから、不思議なものです。スターバックス コーヒーは短時間勤務のカフェアテンダント制度をシニア雇用に活用している。山田さんはその第1号として採用された。生涯現役の拠点がある幸せ「RUN伴」のブースでおいしいコーヒーを提供してくれたスターバックス コーヒー 町田金森店の店長から、2カ月後にグランドオープンする新店舗「南町田グランベリーパーク店」で働かないかと誘われたときは、一瞬からかわれたのかと思いました。スターバックスは若い人の店というイメージがあり、私の年齢で働くのは無謀だと考え、一度はお断りしましたが、その後もお誘いをいただき、思い切って挑戦することにしました。生意気にも、「ボランティア活動主体の生活を続けたいので空いている時間帯で」と条件を出させてもらいました。すぐに研修を受け、昨年11月の新規オープンから、週2回、10時から14時まで働いています。仕事の内容は主にみなさんのサポートですが、新商品の試飲などを担当することもあります。南町田グランベリーパーク店は、若い人をターゲットにしつつも、福祉対策に力を入れる町田市の店舗として、バリアフリーの実験を進めています。車椅子の移動も視野に入れたレイアウトなど、高齢者や障害のある方も気軽に利用していただける空間を目ざしています。私は傾聴ボランティアなどの経験を活かして、心に寄り添う接客を心がけています。店長は息子と同世代、スタッフは孫と同世代で、ここに来るだけで若返るような気がします。若い人には、「いまの経験が必ずその後の人生に役に立つから、どんなことも一生懸命やろうね」と話しています。新商品を覚えるのも一苦労ですが、みなさんが親切に教えてくれるので、もっと店の役に立たなければと思っています。カウンターのなかに入ることはありませんが、裏方として仕込みができるように、毎日が勉強の連続です。たとえ短時間勤務でも、休めばほかの人に迷惑がかかりますから、健康には十分気を遣い、万歩計をつねに身につけてしっかり歩くように心がけています。実は、最近和太鼓を習い始めました。「何か新しいことに挑戦すれば脳が活性化するのでは」、との考えからです。どんどん脳を活性化して、お店から「もうこなくていいですよ」といわれる日まで、パワフル勝ちゃんは走り続けようと、ひそかに心に決めています。※2 RUN伴……認知症にやさしい街づくりを目ざして2007年に設立された「特定非営利活動法人認知症フレンドシップクラブ」が運営

元のページ  ../index.html#37

このブックを見る