エルダー2020年7月号
4/68

2020.72漫画家 おざわゆきさん少なくとも漫画では未み踏とうのジャンルだろうということで、思い切って80歳の主人公を誕生させました。―どなたか身近にモデルになるような方はいらしたのですか?おざわ 連載を始めたころに、私の母がすでに80歳を過ぎていました。また、以前私は踊りを習っていて、周りの生徒さんたちはみな高齢者でしたから、私にとって高齢者は、けっして遠い存在ではありませんでした。いまどきの高齢者は、私たちがかつて抱いていたお年寄りのイメージとは異なります。食べたいものを食べ、着たいものを着て、 好きなことに前向きに取り組み、人生をあきらめたりしません。そして愚痴をこぼしたりもします。枯れてもいないし、衰えてもいないですね。 夫に先立たれた主人公のまり子は、息子夫婦、孫夫婦、ひ孫と四世代同居で暮らしていましたが、あることがきっかけとなり、リュック一つで家出をするというところから物語が―現在連載中の『傘寿まり子』は、80歳の女性が主人公です。高齢の女性がヒロインという設定はとてもインパクトがありますが、この作品を描こうと思われた経緯をお聞かせください。おざわ 前作『あとかたの街』※では、名古屋空襲を当時の少女の視点から描きました。私の母の少女時代の体験をベースにしたものです。その連載が終わり、次の作品の構想を考えていたとき、戦時中の少女が高齢期を迎えて、いまの時代を生きている姿を描きたいと思うようになりました。―60代でも70代でもなく、80歳にしたのは何か理由がありますか?おざわ 主人公を高齢の女性にするというアイデアについて、編集者と話し合いました。高齢社会となったいま、高齢者はあたり前の存在で、60代や70代を主人公とした作品はすでにだれかが手がけているかもしれない。でも、さすがに80歳にスポットをあてた作品は、始まります。年をとってからも、いろいろなことに悩み、次々と新しいことに挑戦していくことになりますが、いまの高齢者なら、多くの方がそれくらいのエネルギーを持っているし、わが身に置き換えて共感してもらえるのではないかと思いました。―読者も高齢者が多いのでしょうか?おざわ 漫画の読者層はだんだん年齢が上がり、その一方で若い人たちも読んでいますから、幅が広がっていると思います。ボリュームとして多いのは私と同年代(50代)か、少し下くらいの人たちだと思います。主人公の息子のお嫁さんくらいでしょうか。主人公の子ども世代や孫世代の読者が多いわけですが、その世代の目にいまの高齢者がどう映っているかという視点も意識して描いています。読者アンケートなどでは、「私も年をとったら、まり子のように生きていきたい」という感想もいただいています。―主人公のまり子は小説家という設定ですね。おざわ はい。年をとっても仕事をしている人を描きたかったのです。実際に高齢で活躍されている有名な女性作家さんはいらっしゃいますから、80歳の小説家という設定は違和80歳の女性がリュック一つで家出そこから始まる冒険物語が評判に※ 『あとかたの街』……太平洋戦争末期、昭和19年の名古屋で国民学校高等科1年生〝あい〟の目を通し、戦争体験が描かれる。全5巻(講談社)

元のページ  ../index.html#4

このブックを見る