エルダー2020年7月号
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特別企画成立! 働き方改革関連法案エルダー41連載のねらい〜高齢社員の賃金は「賃金の基本」から考える〜1今回の連載では、60歳以上の高齢社員の賃金はどうあるべきかを考えたいと思います。ここで60歳以上を高齢社員としたことには理由があります。いまでも多くの企業が60歳定年制をとり、定年を迎えた社員を嘱託などの非正社員として再雇用し、定年前の正社員と異なる人事管理を適用しています。しかも定年を延長する企業でも、旧定年年齢である60歳を契機に賃金の決め方などを変える企業が少なくないからです。いま、多くの企業が高齢社員の賃金をどうするのかに苦労し、すぐにでも「賃金はこうあるべき」という解答を求めていると思います。しかし、どの企業にも通用する「あるべき賃金」はありません。「あるべき賃金」は、それぞれの企業がそれぞれの事情に合わせて苦労してつくりあげるものです。それは、賃金は社員をどのように育成し活用するのかにかかわる個々の企業の考え方に沿って決められ、この考え方は個々の企業がとる経営のビジョンや戦略に沿ってつくられるからです。このように「あるべき賃金」は会社によって異なりますが、どの企業も、それをつくりあげる際に準拠すべき考え方や手順があります。これが「賃金の基本」であり、「賃金の基本」がわかっていれば、経営の状況がどんなに変わっても対応できる応用力がつきます。また、後述するパートタイム有期雇用労働法は、企業に正社員と非正社員の処遇の違いを社員に説明することを義務づけていますが、「賃金の基本」を知ることは、この説明する力を高めることにもつながります。このようなことから、連載では「賃金の基本」にこだわって高齢社員の賃金を考えたいと、また読者のみなさんには、具体的な制度や施策にとどまらず、それを支える「賃金の基本」についても理解していただきたいと考えています。高齢社員の賃金問題は「社員の多様化」問題の一タイプ2「賃金の基本」とともに重視したいことは、高齢社員の賃金問題は会社全体の賃金問題の一部であるという視点を持つことです。特にいまは、どのような賃金が企業にとって合理的で、社員にとって公正なのかについて、高齢社員以外のさまざまな場面で問題になっています。例えば、複線型人事管理をとる企業では、働く地域が限定されず転勤のある総合職と、勤務地が限定され転勤のない一般職の賃金の違いはどうあるべきかが問われています。同様のことは、非正社員を雇用する企業では正社員と非正社員の間でも、短時間正社員制度をとる企業ではフルタイム勤務の正社員と短時間勤務の正社員の間でも問われています。このように、正社員と非正社員などの処遇の違いをどうすべきかは、企業が自ら取り組むべき重要な経営課題なのですが、パートタイム有期雇用労働法はその動きを促進しています。さらに同法は、定年後に非正社員として再雇用された社員にも適用されるので、高齢社員の賃金に与える影響も大きいといえます。そこで、42頁のコラムで同法の内容を簡単に説明しています。詳細については厚生労働省作成の「不合理な待遇差解消のための点検・検討マニュアル」※を参照してください。ここで重要なことは、これまで紹介した総合職と一般職、正社員と非正社員、フルタイム勤務の正社員と短時間勤務の正社員の賃金格差の問題はすべて、担当する仕事、キャリア形成の仕方、あるいは働き方などで決まる社員タイプ間の問題であるということです。いま、社員が求める働き方やキャリアの多様化が進み(つまり「社員の多様化」が進み)、企業はそれをふまえて人事管理を変えていかねばならない状況※ 厚生労働省「不合理な待遇差解消のための点検・検討マニュアル(業界別マニュアル)」https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_03984.html高齢社員の

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