エルダー2020年7月号
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特別企画成立! 働き方改革関連法案エルダー43も基本となることなのです。しかし、それにどう答えるかはむずかしく、その背景には次のことがあります。AさんとBさんは、会社の経営成果に貢献するために、異なる仕事(営業と技術)を通して、異なる形態の価値(「売上げを上げること」と「新しい商品を開発すること」)を生み出しています。ここで大切なことは、2人が生んだ価値は形態が異なるために、直接比較してどちらが大きいかを決めることができない、ということです。それにもかかわらず会社は、①形態の異なる2人の貢献を何らかの方法で貢献の大きさに換算する、②2人の貢献の大きさを比較する、③2人の貢献の大きさが同じであったので同じ賃金とする、という手順をふんで2人の賃金を決めています。このように見てくると2人は、会社がどのような換算の方法をとっているのか、その方法がなぜ公正で合理的であるのかを説明してほしいと社長に求めている、ということになります。賃金を考えるときには、賃金を決める仕組みと、その仕組みを通して決定される賃金額を分けて考えることも必要です。賃金制度というのは、前者の賃金を決める仕組みのことを指します。例えば、ある会社は勤続給をとり、勤続10年目の社員に毎月10万円の賃金を支給しているとすると、この会社は勤続年数にリンクして賃金を決める仕組みの賃金制度をとり、その制度のもとで勤続10年目の社員の賃金額を10万円としているのです。さらに同じ勤続給をとっても、勤続10年目の社員の賃金を10万円とすることも、15万円とすることも、20万円とすることも可能です。ですから前述したように、賃金制度と賃金額は分けて考えることが必要になるのです。賃金制度をこのようにとらえたうえで、勤続給を仮想事例に当てはめると、社員の貢献の大きさは勤続年数に比例するので、AさんとBさんは仕事内容、つまり会社に対する貢献の形態は違うが勤続年数が同じなので同じ賃金にする、というのが社長の回答になります。ただし社長のいう、異なる形態の貢献を勤続年数で貢献の大きさに換算する方法に、2人が納得するかはわかりませんが。このように見てくると、賃金制度とは「異なる仕事を通して異なる形態の価値を生み出し、異なる仕方で経営成果に貢献している」状態をお金(賃金)に変換する仕組みであることがわかります。AさんとBさんが同じ仕事であれば、どちらが多くの価値を生み、経営成果に対して多くの貢献をしたかを見極めることは容易ですが、仕事の異なるAさんとBさんのどちらが多くの価値を生み、多くの貢献をしたかを見極めることはむずかしいことです。それにもかかわらず、最後には2人のどちらが経営成果に対する貢献が大きいか、同じか、小さいかを決めないと2人の賃金は決まりません。「あるべき賃金制度」を考えるということは、この問題の解答を考えることなのです。これまでは仕事内容の違う場合を例にあげて説明しましたが、労働時間などからみた働き方の違いでも、職務・配置の変更範囲の違いでも同じことがいえます。こうした違いによって社員の会社に対する貢献の仕方の形が異なる場合に、賃金の決め方はどうすべきであるのか。これが「社員の多様化」が進むなかで、いま会社が対応を迫られている課題であり、そのなかの一つが高齢者の賃金なのです。このことを正しく理解することが「賃金の基本」の第一歩です。高齢社員の

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