エルダー2020年7月号
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ですが、私人間(企業と労働者間)の合意により定められる権利義務関係を意味しています。理解のためにあえて単純化するとすれば、労働者が使用者に対して有している権利の内容を決めることが、私法関係であるとイメージを持ちやすくなるかもしれません。私法関係については、「法の適用に関する通則法」という法律が、国をまたぐ契約関係などにおいて、どこの国の法律にしたがうのかというルール(準拠法と呼ばれます)を定めています。原則として、当事者の合意による準拠法が選択され、それが定められていない場合には、最も密接に関連する国の法律が適用されるというのが基本的なルールです。そして、労働関連法においては、労務を提供する場所を最も密接に関連する国と推定していますので、当事者による準拠法の選択がない場合には、労務提供地である海外の労働関連法が適用されることになります。なお、仮に、準拠法を選択して日本と定めていた場合であっても、労働者が適用するよう求めた現地の強行法規(例えば、日本でいう労働基準法や最低賃金法などの最低基準を定めた法律など)に反する合意は、無効とされてしまいます。したがって、準拠法を日本と定めておく方が人事労務管理はしやすいとはいえますが、現地の法律(特に強行法規)の調査などが不要となるわけではありません。出張中の労働者について3海外出張中の労務提供に関しては、形式的に見れば、現地における労務に従事しているともいえそうです。しかしながら、比較的短期間の出張のために、海外の労働関連法が適用されるのは不都合であり、現実にそぐわないでしょう。したがって、短期的な国外における就労については、労務の提供を受けているのが日本国内の企業であることから、労務の提供地が日本であるものとして、国外の労働関連法は適用されないことが多いと整理されています。出向中、海外支店勤務について4出向や海外支店において勤務することになった場合は、出張などの短期的な就労とは異なります。したがって、当事者間において準拠法の選択がされていないかぎり、赴任先の国の労働関連法にしたがうことになります。日本国内で締結した労働契約の条件を維持している場合においても、現地の労働関連法令を順守できているとはかぎりません。また、仮に、準拠法の選択をしていたとしても、労働者が強行法規の適用を希望した場合には現地の労働関連法が適用されることになります。そのため、短期間ではない出向や海外赴任を行う場合には、現地法の調査が必要ということになります。現地法が適用されることになれば、日本とは労働時間の上限や割増賃金の計算方法などが異なる可能性があるため、支給すべき賃金にも影響する可能性があります。そのほかの留意事項について5海外赴任時において、労働条件と並んで問題となりやすいのが健康管理です。企業は、労働者に対する安全配慮義務を負っており、これを怠った場合には、労働者に対する損害賠償義務を負うことになります。安全配慮義務は、企業と労働者間の私法関係ですが、指揮命令により安全配慮を実施することができるかぎりにおいては、企業の責任を認めている裁判例も存在しています(東京地裁平成22年8月30日)。健康管理を実施するにあたって、海外においては医療水準もさまざまであり、必ずしも日本と同等の医療的ケアを受けられるとはかぎりません。さらに、海外における診察を受けるには、コミュニケーションがうまくいかないことで、適切な治療が受けられないリスクもあるなど、国内における安全配慮義務の尽くし方とは異なる問題が生じることがあります。厚生労働省検疫所が公表している「FORエルダー45知っておきたい労働法AA&&Q

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