エルダー2020年7月号
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や就業規則で労働時間を固定化することはできず、実態に即して客観的に判断されるということと、労働からの解放が保障されていなければ、労働時間としてあつかわれることがあるということになります。始業前または終業後の業務2今回の質問で問題となりやすい点は、就業規則などで定められた労働時間における始業前の時間が労働時間であるかというものです。例えば、朝礼や朝の掃除、制服への着替えなど、始業時間前に準備する場合や終業後の残務処理があります。これらの行為についても、使用者の指揮命令に基づくものであれば労働時間となりますが、指揮命令がなく自主的に行っていた場合や業務との関連性が希薄である使用者の指揮命令があったとはいえないような場合には、労働時間ではないとされます。労働時間性を否定した裁判例を概観すると、駅員が行う労働時間開始前の口頭で行われる引継ぎに関して頻繁に行われることがない簡潔なものであることから、口頭引継の時間については労働時間性が否定されています(東京地判平成14年2月28日)。そのほか、実習に関する日報であり業務と直接関連するものではないこと、日報が必ず当日中に提出しなければならない決まりがなかったこと、労働時間中に日報作成のための時間が確保されていたことなどから、日報作成のために残業することが義務付けられていたとはいえないとして、労働時間性が否定されています(東京高判平成25年11月21日)。一方で、上記の駅員の事案においては、始業時間開始前に行われる点呼については、交代時の業務の一環として行われていたこと、マニュアルを作成、配布して点呼方法を周知し、点呼を行うことを教育指導していること、点呼を行わなかったことが不昇格の理由とされたことがあることなどから、点呼の時間は労働時間性が認められています(東京地判平成14年2月28日)。これらの事例においては、業務との関連性や明示的な指示、マニュアルの存否に加えて、不利益取扱いの有無などをふまえて、判断されています。仮眠時間・不活動時間について3使用者が、労働者に対して、仮眠時間や積極的に業務に取り組む必要がない時間とされている休憩時間について紛争になることがあります。使用者の立場からすれば、仮眠しても構わないとしているくらいなので、労働時間ではないと判断していることが多いですが、裁判例では必ずしも仮眠時間の労働時間性は否定されていません。前掲の最高裁判決の事案(最判平成14年2月28日)は、夜間の警備業務において、1名体制であるうえ、警報や電話などにただちに対応することが義務づけられていたことなどから、労働時間性が肯定されています。結果として、仮眠時間としていた時間すべてが労働時間とされたため、一日あたり7時間から9時間の時間外労働(一部は深夜労働でもあります)が増加する結果となりました。この判例以降も同種の事案は生じていますが、例えば、4名体制の2名ずつ交代制で勤務する形をとり、仮眠室が用意されており、実際に仮眠時間に活動せざるを得ない状況もほぼ皆無であった事案においては、労働時間性が否定されています(東京高判平成17年7月20日)。そのほか、深夜の夜行バスの運転手の事案ですが、2名体制で、休憩中の運転手が仮眠することができるほか、飲食も許されており、制服の上着を脱ぐことも許されていたことなどをふまえて、労働時間性を否定した事案もあります(東京高判平成30年8月29日)。仮眠時間などを労働時間から除外するためには、複数名体制とすることが最も有効であり、そのうえで、仮眠時間中の即時対応義務を明示的に否定しておくことが重要であることが、裁判例から見て取ることができます。エルダー47知っておきたい労働法AA&&Q

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