エルダー2020年7月号
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エルダー3まり子はまだ仕事をする意欲も能力も衰えておらず、文芸誌の仕事が打ち切りになっても、人生までも打ち切るわけにはいかないのです。 家出をしたまり子は、生活の場としての居場所を確保するだけでなく、仕事での居場所も確保しなければならない状況に直面します。そして作家仲間たちの仕事の居場所をつくるために行動を開始します。それがウェブ文芸誌なのですが、まり子はここで、編集者という新しい仕事、ウェブという新しい手法、どちらも自身にとって未知の世界に飛び込んでいくことになります。―サラリーマンの世界でも、シニアの年代になってから、大きなキャリアチェンジを迫られることがあります。ある分野でのベテランになればなるほど、未知の領域でリスクを背負うことを避けたり、新しい技術や手法を否定したりしがちです。でも、まり子は臆することなく挑戦しますね。20歳そこそこのクリエイターにアドバイスを求めるシーンが印象的でした。まり子がウェブ文芸誌の構想を語ると、クリエイターが手厳しくそのアイデアをこき下ろすという場面です。おざわ この漫画の読者は、日常的にスマートフォンなどになじんでいて、少なくともまり子の世代よりはネットの世界に通じています。まり子に対するクリエイターの容赦ないダメ出しは、そうした読者の視線を意識しました。どれほど一つの仕事に精通していても、思いつき程度のアイデアでウェブ文芸誌が成功するなどあり得ない。読者はそう感じ、引いたところからまり子の挑戦を冷静に見ていると思います。もしここでまり子の新しい事業がすんなり軌道に乗ったら、それはファンタジーです。世の中そんなに甘いものではないと、私自身もそう思います。―感心したのはその後の場面で、まり子はクリエイターに浴びせられた言葉を「同感だわ」と、いったん受け止めます。自分のアイデアを若者に全否定されたのですから、プラ感なく受け入れられると思いました。―文学界で長く活躍してきたまり子ですが、文芸誌での連載の仕事を打ち切られ、自分を含めたベテラン作家の発表の場をつくるために、スマートフォンやパソコンで読めるウェブ文芸誌を立ち上げようとします。おざわ 文芸誌を発行する出版社も、かつて名を馳せたベテラン作家というステータスだけで誌面を提供するわけにはいきません。売れる作家に代わってもらわなければ立ち行かない。しかしそれは出版社の事情であって、20代の若者に否定される主人公高齢者のリアルな姿が描かれるない。しかしそれは出版社の事情であって、ネットカフェを初めて訪れたまり子(左)、文芸誌での連載を打ち切られることになる(右) Ⓒおざわゆき/講談社

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