エルダー2020年7月号
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■■■■■■■■人事用語辞典いまさら聞けないエルダー49については、年齢を引き上げる「定年延長」や定年という制度そのものをなくす「定年廃止」、また最低65歳までの「継続雇用」の三つのうち、いずれかを実施するように法的に求められているのが65歳までの雇用義務化の意味しているところです。定年延長や定年廃止に比べ「継続雇用」はわかりにくいと思います。継続雇用とは、いったん定年退職して雇用関係が終了した社員がさらなる就業を希望する場合、雇用契約を結び直して再雇用することをさします。継続雇用における処遇については、雇用契約の結び直しを機に、特に報酬面を見直す運用をしている会社が多いのが実態で、定年退職前の年収水準にくらべ30パーセント以上減額したうえでの雇用が一般的な傾向となっています(独立行政法人労働政策研究・研修機構『高齢者の雇用に関する調査』2016年)。しかしながら、定年退職前とまったく同じ職務や責任・負担でありながら減額されることもあり、問題も生じています。例えば、この点で争われた「長澤運輸事件」※は2018年に最高裁判所による判決が出て、かなりの注目を集めました。退職前との処遇格差そのものは否定されないものの、不合理な格差は許されないという主旨です。それならば継続雇用という方法をとらずに、定年延長に一本化したほうがよいという議論もたしかにあります。しかし、一気に定年延長を行うと総額人件費の上昇につながり企業経営を圧迫する、本人の体力や気力に応じた働き方とそれに見合った処遇に見直す機会が失われるという意見も強く、なかなか定年延長にはふみ込めないのが実情です。2019年時点では、雇用確保の方法として約8割の会社が継続雇用制度を選択しています(厚生労働省 「高年齢者の雇用状況」集計結果2019年)。今後の動向は70歳までの就業機会確保さて、ここからは今後の動向について見ていきましょう。2012年の65歳雇用義務化からさらに状況が変わり、直近の公表で平均寿命(2018年時点)は男性81・25歳、女性87・32歳、健康寿命(2016年時点)は男性72・14歳、女性74・79歳(第11回健康日本21(第二次)推進専門委員会資料2018年)です。なんと、健康寿命は先に述べた1969年の平均寿命を超えています。「人生100年時代」や「生涯現役」というフレーズもここ数年でよく見られるようになり、かつての60歳以降=定年=隠居というイメージはすっかりなくなり、60歳以降もこれまでつちかったスキルや経験を活かして働く、体力や気力がある間は働くという意識やライフスタイルへ転換してきています。このような情勢をふまえ、70歳までの就業機会確保が来年(2021年)4月施行で努力義務となります。この努力義務にはすでに解説した「定年廃止」、「定年延長」、「継続雇用」のほか、「他企業への再就職支援」、「継続的な業務委託」、「社会貢献活動への従事」ができる制度の導入が盛り込まれ、従来よりも幅広い選択が可能となっています。注意しておきたいのが、定年の最低年齢は60歳のままで、定年年齢の引上げに直結しているわけではありません。ただし、過去の経緯から見られる通り、努力義務から雇用義務へ、それにともない定年の引上げとなることは十分に想定されます。会社にとっては70歳雇用延長または65歳定年引上げを前提とした社員のキャリアプランや人事制度の見直しが今後は重要課題となると考えられます。また、本人にとっても、どのようなスキルを武器にいかに活躍していくかという長い目で見たキャリア形成を真剣に考える時期がきているともいえます。☆  ☆次回は定年退職に密接にかかわる「退職金」について解説する予定です。※ 長澤運輸事件…… 定年退職後、嘱託社員として再雇用された社員らが、職務の内容は正社員時代と同一であるにもかかわらず、正社員と比べて2割程度低い賃金とされたことについて、労働契約法第20条に違反し無効であると主張していた事件

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