キャリア・プランの見直し〜「のぼるキャリア」から「くだりのあるキャリア」へ〜子高齢化の進展による高齢社員の増加は、福祉的雇用を採る企業に基本方針の見直しを迫り、人手不足に悩まされている産業・企業を中心に戦力化への転換が図られました。加齢にともなう身体機能の低下などに配慮しつつ、高齢社員がこれまでつちかってきた経験・スキルなどを活かせる職務開発を行う一方、高齢社員に戦力として働いてもらうための必要なキャリア教育と能力開発が進められました。マンガに登場する会社の情報通信業界は人手不足に悩まされているものの、ほかの産業に比べて比較的若い産業であるため高齢社員が少なく、彼らを活用するためのキャリア支援体制が十分に整備されていないことがトラブル発生につながったと思われます。それでは、現在、高齢社員の戦力化を考えている企業は、先行して戦力化に取り組んでいる企業を目標に自社のキャリア支援体制を見直せばよいのでしょうか。令和期に入った現在、それだけでは不十分な状況になりました。なぜなら、今年、高年齢者雇用安定法が改正され、70歳までの高齢社員の就業機会を確保することが、企業の努力義務として課せられたからです(2021年4月1日施行)。現時点では「努力義務」とはいえ、少子高齢化の進展は高齢社員の比率をさらに高めることを意味しますし、平成期の政府の高齢者雇用政策の変遷をふり返ると、いずれは「義務化」になることが予想されます。また、大手企業を中心に役職定年が増えつつあるなか、50代で管理職を離れ、専門職、専任職、あるいは一般社員などの非管理職(以下、「一般社員等」)として定年まで働き、その後、継続雇用に切り替わり70歳まで働いてもらうことを念頭におくと、10年以上一般社員等としてのキャリアを歩むことになるので、能力開発を行い、業務スキルを磨き続けておくことが求められます。これまでの社員のキャリア・プランは中核的な役割をになう管理職を目ざすことを目標にした「のぼるキャリア」でした。しかし、先に紹介したように、大企業を中心に普及しつつある役職定年制によって、管理職は定年前に役職を離れ、一般社員等としてのキャリアを歩むことになります。さらに、今後は年金支給開始年齢の段階的引上げの経過措置終了にともなう65歳定年の動きが始まることが予想されますので、役職定年制の普及はさらに広がることが考えられます。こうした動きはキャリア・プランの見直しを意味し、管理職として定年を迎える「のぼるキャリア」から定年前に管理職を離れ一般社員等のキャリアを歩む「くだりのあるキャリア」への転換を意味します。も改めて検討することが必要になります。定年を迎えた60歳から継続雇用上限年齢の65歳までの5年間の高齢社員を活用する際、これまでつちかってきた経験・スキルなどを活かせる仕事を担当してもらうことが互いにとって最適な方法と考えられていました。ただし、企業側の組織運営上の観点から高齢社員全員の継続雇用後の仕事を定年前と同じ仕事にすることはむずかしく、マンガに登場するようにまったく異なる仕事に配属された高齢社員もみられます。確保を念頭にした場合、10年以上一般社員等として戦力として活躍してもらうことになりますので、これまでつちかってきた経験・スキルなどを活かせる仕事を担当してもらう方法を継続するのは人材活用施策の観点からむずかしくなります。そのため、隣接あるいは関連する領域の仕事(職域)に広げたり、さらにビジネス環境の変化に対応した新しい技術の習得や業務スキルなどを磨いたりすることが求められるといえるでしょう。また、定年後の継続雇用のキャリアについて平成期の65歳までの雇用確保措置のもとでは、令和期では、役職定年と70歳までの就業機会2020.818
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