員が「福祉的雇用」のもとで労働意欲の低い社員として登場したら、企業の人材力は大きく劣化し、経営に深刻な影響を及ぼします。つまり高齢社員の戦力化は、企業にとっては避けて通れない経営課題なのです。これが、高齢社員の「あるべき賃金」を検討する際に想定しなければならない活用戦略のポイントになります。考えてみれば社員を戦力化するということは当たり前のことです。しかし、高齢社員の場合には、戦力化に本気で取り組む覚悟を持つことが活用戦略の重要な出発点なのです。「福祉的雇用」型は「成果を期待しない」活用戦略に合わせてつくられた人事管理であると説明しました。そのため高齢社員を戦力化する活用戦略を採るのであれば、企業は「福祉的雇用」型の人事管理から脱却することが必要になり、賃金の決め方も変わることになります。改めて強調します。高齢社員を戦力化するには、賃金の前に、高齢社員をどう活用するかを明確にする必要があります。多くの企業、多くの専門家が高齢社員の賃金には問題があると考え、賃金の改革案を検討していますが、現行の賃金には問題がないのかもしれません。それは「福祉的雇用」型の活用戦略には適合しているからです。ですから、活用戦略から始めるという視点は忘れないでください。それでは、高齢社員の活用についてどう考えるべきでしょうか。どのような業務につけるのかなどの具体的な活用内容は、会社の事業内容や人事管理の考え方によって異なりますが、活用を検討する際に必ず準拠してほしいことがあります。多くの企業が採る「60歳定年+再雇用」を前提にすると、「再雇用とは定年を契機とした労働契約の再締結である」ということが、活用戦略を考える出発点になります。労働契約を新たに締結するという点からみると、高齢社員を再雇用するということは、企業にとって社内から高齢社員を中途採用することに等しいのです。ただし、一般の中途採用であれば企業は採用しない裁量を持ちますが、高齢社員の再雇用の場合には、希望者を必ず採用しなければならないので、企業には採用しない裁量はありません。このように、再雇用を一種の中途採用であるととらえると、業務ニーズを満たす人材を高齢社員から確保し配置するという対応が基本になります。業務ニーズ(つまり人材に対する需要)に確保・配置を合わせることを重視するので、これを「需要サイド型」の活用戦略と呼ぶことにします。それに対して高齢社員に合わせて仕事を探して、あるいは仕事をつくって配置するという、いまでも多くの企業が採る対応もあります。会社が自分に合った仕事を用意してくれると考えている高齢社員が多くいますが、それも同じことです。この対応は高齢社員の希望(つまり労働サービスを供給する人材側のニーズ)に合わせて人材の確保・配置を決めることを重視するので「供給サイド型」と呼べる活用戦略になります。しかし、一般の中途採用では企業が応募者に合わせて仕事をつくることはありません。このことからわかるように、「供給サイド型」は望ましい活用戦略とはいえません。しかも「供給サイド型」を採ると、業務上必要でないのに雇用するという傾向が強まり、「福祉的雇用」の状況に陥りがちになります。したがって再雇用であっても、現実にはなかなかむずかしいとは思いますが、できるかぎり「需要サイド型」の活用戦略を採ることが求められます。つまり、会社は社内の人材ニーズを洗い出し、「高齢社員に何を期待するのか」、「高■活用戦略を考える視点高齢社員活用の方向2020.8483
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