エルダー2020年9月号
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るがえ翻ひって事業主の視点で考えてみれば、高齢者確保の義務を果たすための制度を構築するうえでは、これらをひとくくりにして、どのような制度を構築するべきかといった単純な議論をすることはできません。に対する処遇の問題は、法律上の義務の観点からだけではなく、高齢者に対する処遇が現役世代の安心感やモチベーション、在職継続意思などにおよぼす影響を無視することはできません(もちろん人事制度設計者自身が、就業者として自らの将来を考える必要があるという現実も無視できないでしょう)。さらに事業を進めるうえでは、人手確保の観点からだけではなく、経験者の技能確保の観点からも、高齢者に対する雇用確保措置を考える必要があります。このような観点からは、前述の就業者の視点と事業主の視点とで、求められる方向性は、一致しているように見えます。しかし、事業主の視点としては、人材の新陳代謝を図り、能力のある若手に活躍の場を与える必要性や、技術革新にともなう就業者の能力の陳腐化の問題に対する対処も考える必要があります。さらに、終身雇用制や年功賃金の影響が残る人事制度において、継続雇用における待遇決定を、人件費コストを引き下げる方策の一つとする必要性に迫られる場合があります。このような必要性は、生活の安定のために継続雇用を希望する就業者の望むところとは逆のものとなり得ます。したがって、事業主としては、継続雇用における労働条件を定めるうえで、高齢者の多様性をふまえ、かつ前述の就業者としての視点にも配慮しながら、労働力確保の必要性とコストの削減の必要性とのバランスをどのように取るのかの検討を行う必要があるといえます。また、継続雇用制度の構築においては、人件費コストの問題である待遇の問題と並行して、どのような内容の業務を担当してもらうのか、またその勤務形態をどのように定めるのかについても検討する必要が生じます。そして業務の内容や勤務形態については、業務上の必要性からの観点および就業者の意欲と体力や家庭環境などへの配慮をふまえて決められることになるものと考えられます。このように業務内容や勤務形態を決めるうえでは、本人や家族の健康問題の制約などもあるので、業務上の必要性だけではなく、その勤務形態について時間や場所の柔軟性についての配慮も必要となります。そして、業務内容および勤務形態と、これに対する待遇の問題とは密接に関連するものなので、現実に雇用確保措置としての継続雇用制度を考えるうえでは、以上の各問題を一括して検討しなければならないことになります。クターである、柔軟な就業体制の構築について、現行法における65歳までの雇用確保の義務を果たすうえで留意すべき事項を取り上げて検討します。柔軟な就業体制についての場所と時間の柔軟性が問題とされます。時間と場所の柔軟性といわれて思い浮かぶのはテレワークです。しかし、雇用関係においてテレワークを行う場合は、就業の場所についての柔軟性があるとはいえますが、雇用者である以上当然に、労働時間法制の規律のもとにありますので、勤務時間についての柔軟性があるとはいえません。勤務時間の柔軟性を高めるためには、通常勤務の場合と同様に、フレックスタイム制や裁以下では、それらの検討のなかの一つのファ柔軟な就業体制というときには、おもに就業定年後の雇用・就業確保措置〜事業主からの視点〜柔軟な就業体制・制度構築の必要性12

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