エルダー2020年9月号
28/68

と思う人もいるでしょうが、実は定年時にそれほどお金を持っていなくても、生活していけないというわけではありません。事実、私は自分が定年になったときに貯金は150万円しかありませんでした。今回は紙幅の関係で、年金については詳しく触れることはできませんが、自営業ではなく、普通にサラリーマンをやって定年まで迎えた人であれば、公的年金でも生活していくことは可能です。図表2をご覧いただくとおわかりのように、高齢者世帯で公的年金だけで生活している割合は半数以上います。もちろん、公的年金だけでは生活できないという人も約半数ですから、定年後に働く人の割合は増えています。また、高年齢者雇用安定法の改正による「70歳までの就業確保措置の努力義務化」や、年金改革法で在職老齢年金も見直されましたので、今後も60歳以降働く人はさらに増えることで一定の収入は確保されるでしょう。したがって、60歳以降の仕事や生活で大切なことは、“お金を貯める”ことを第一に考えるのではなく“人とのつながり”を第一に考えるべきだというのが私の考えです。なぜなら前述した老後の三つの不安のうち、私自身の経験からいえば最も深刻なのは実は「孤独」だからです。これは現役時代にはなかなかわからないことなのですが、実際に会社を辞めると「孤独」は容赦なく襲いかかってきます。会社のなかにおける地位を失った人にはだれも声をかけてくれることはありません。場合によっては家族からですら疎うんじられることもあります。実際に私自身の例でいえば、38年間勤めた会社の元同僚や上司、部下といった人たちでいまも交流があるのはせいぜい3~4人です。ところが定年以降に知り合って付き合い始めた人たちの数は多く、数百人はいます。これらの人たちは単にSNSなどでつながっているだけではなく、そのほとんどはセミナーや食事会、趣味の集まりなどでリアルにつながっている人たちばかりです。さらにいえば、人とのつながりが多くあるということは、単に遊びや趣味の世界で仲間がいるだけではなく、仕事をする場合でも大いに役に立ちます。私も起業した初めのころは、いただいた仕事の多くが、紹介を通じたものでした。会社の看板がなくなって仕事をするわけですから、人同士の信用というのはこのうえなく大切なものなのです。このように「貯人」はあらゆる面において定年後の人生を支えてくれるものだといっていいでしょう。大切なことは、「自由」であり続けることです。そのためには自分ファーストではなく、「減蓄」によって自分の持っている知恵を人に分け与える、そしてそんな気持ちや行動でもって「貯人」に励むことが重要なキーになるのではないでしょうか。定年後の充実したライフをつくるために最も図表2 公的年金を受給している高齢者世帯20〜40%未満40〜60%未満60〜80%未満80〜100%未満20%未満26出典: 厚生労働省 「平成30年国民生活基礎調査の概況」より株式会社オフィス・リベルタスが作成と4%9%12%公的年金を受給している高齢者世帯13%11%51%総所得に占める公的年金の割合が100%の世帯

元のページ  ../index.html#28

このブックを見る