エルダー2020年9月号
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―先の通常国会で高年齢者雇用安定法が改正され、企業の努力義務として、70歳までの就業確保措置を講じることが定められました。どのような点に注目していますか。―そうした背景が、雇用だけではない多様な選択肢を設けたことにつながっているのですね。「人生100年時代」という超高齢社会高齢者が長く働ける環境整備は社会的要請濱口 改正前の高年齢者雇用安定法で、65歳までの雇用確保措置が登場した背景には、公的年金の支給開始年齢引上げという問題が前提にありました。老後生活の所得保障という観点から、年金の支給開始年齢と退職年齢には密接な関係があります。この間に空白期間があってはならない。それ以前の60歳への定年延長も、厚生年金支給開始年齢の引上げを追いかける形で始まったものです。その年金の支給開始が65歳に引き上げられることを受けて、65歳までの雇用確保が政策課題となったわけです。しかし今回の法改正では、年金支給開始年齢の引上げが予定されていないなかで、退職年齢をさらに引き上げ、70歳まで働き続ける社会の実現を目ざす政策が打ち出されました。「人生100年時代」といわれる超高齢社会にあっては、増加する高齢者が、支えられる側ではなく、できるだけ長く社会を支える側にとどまるような環境を整える必要があります。つまり、70歳までの就業確保という政策は、かつてのように年金政策を前提として登場したものではなく、雇用政策、就業政策主導で行われたという点が大きな特徴です。濱口 65歳までは、定年延長や継続雇用制度、または定年制の廃止といった措置によって、原則として自社で雇用し続ける形での雇用確保措置が求められてきました。しかし、65歳を超えて70歳まで働くとなると、事業主に対し、一律にその年齢まで、高齢者を雇い続けるのを求めるだけでは実現がむずかしい。そこで事業主に対し、高齢者を雇用し続けること以外にも、高齢者の社会活動への参加を支援するような取組みをうながす措置として、多様な選択肢を示したわけです。自社での継続雇用だけでなく、子会社・関連会社などによる継続雇用が含まれていましたが、70歳までの継続雇用では、それに加えてほかの企業による継続雇用も含まれることになりました。いわば転籍によって高齢者の継続雇用を確保しようということです。これは、高齢者を送り出す企業と受け入れる企業との間で、当該労働者を70歳まで雇用し続けるという契約を締結する形になるのだと思います。   た企業が自ら、またはその企業の委託や資金確保措置ですが、さらに雇用によらない就業確保措置が掲げられています。それは、一つには個人請負型就業で、高齢者が退職した後り会社が高齢者と継続的に業務委託契約を締結する制度です。もう一つは、有償ボランティアがあります。法律では社会貢献事業という言葉を用いていますが、高齢者を雇用してい提供を受けて行う社会貢献事業団体で、70歳まで金銭を受け取って活動する制度の導入も含まれています。すなわち、65歳までの継続雇用制度では、ここまでは「雇用」という形態による就業も70歳までは会社が仕事を出し続ける、つま2020.92独立行政法人労働政策研究・研修機構 労働政策研究所 所長濱口桂一郎さん

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