エルダー2020年9月号
48/68

賃金を発生させないためには、指揮命令に基づく労務の提供を受けることがないようにしておく必要があります。裁判例のなかでも、たとえ無給である旨の合意があり、試し出勤中の軽作業であっても、使用者の指揮に基づき作業成果を享受している場合には、最低賃金相当額の賃金が発生すると判断されています(名古屋高裁平成30年6月26日判決)。そのほか、「試し出勤」の間は、労務に従事しているわけではないことから、通勤災害および業務災害の適用がないことなどはあらかじめ労使間で共有しておくことが適切でしょう。正式な復職後においては、配慮が不要となるわけではなく、就業上の配慮が必要になると考えられています。これは、使用者が負っている安全配慮義務を構成するものと考える必要があります。例としては、短時間勤務、軽作業や定型業務への従事、残業・深夜業務の禁止、出張制限、交代勤務制限、危険作業などの制限、フレックスタイム制の制限または適用、転勤についての配慮などがあげられています。これらのなかでいつでも使える配慮は、短時間勤務でしょう。メンタルヘルス不調からの復帰の際には、リズムを取り戻すことと、仕事をすることに徐々に慣れていくことが必要です。ただし、あまりにも短時間にしすぎると、受領できる賃金が低くなりすぎるため、短ければよいともかぎりません。例えば、初週は4時間、次週は6時間、その後8時間勤務に戻すことを計画し、その間の様子を見ながら計画通りに進めていけるか見守るほか、1カ月経過時点において産業医1コロナ禍の影響もあって、賞与の支給停止または支給額を抑制する企業もありますが、一方で労働者の生計を維持する必要もあることから、対応に苦慮された企業も多いようです。の面談を設定したうえで、復帰後の労働者の状況を把握しながら、復職後の配慮を尽くしていくことが適切でしょう。貸付制度を新たに設けることで、生活の維持に寄与することを目ざした企業もあります。付を行うという目的自体は、労働者の利益のための配慮であることから、禁止すべきものとまでは思われませんが、労働基準法の規制を無視することもできません。企業のなかには、賞与支給に代えて、社内労働者の生計維持のために、企業からの貸労働基準法が規制する違約金および賠償予定の禁止、前借金相殺の禁止に該当しないように制度設計をする必要があります。貸付金の返済について、不履行に対する制裁を与えるなど身体拘束や足止めにならないようにする必要があるほか、賃金からの控除については、労使協定の締結と労働者の自由な意思による同意が必要となります。コロナ禍の影響もあり、賞与の支給を停止することを考えています。しかしながら、住宅ローンの返済など特別の事情がある従業員に対しては、賞与相当額の貸付を行うことを検討しています。会社から、従業員に対して貸付を行うことは許されるのでしょうか。返済を受ける方法は賃金からの控除を実施しても問題ないでしょうか。従業員の生活維持のため、従業員への貸付を行うことはできるのかQ2社内貸付制度と労働基準法の規制の関係2020.946A

元のページ  ../index.html#48

このブックを見る