エルダー2020年9月号
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2まず、労働基準法第16条は、損害賠償の予定を禁止して、労働者の保護を図っています。典型例としては、欠勤や遅刻ごとに一定額の金額を支払わせることなどですが、その趣旨は、金銭賠償を負担させることで身体拘束を図ることなどを防止することにあります。一見すると、貸付とは無関係の規定にも見えますが、例えば、一度支給した賃金を、契約違反などがあったときに返還を求める約束も規制対象に含まれると考えられており、貸付も実質的にこれと同様の意味を持つ場合には、規制対象に入る可能性があります。貸付金であるか、違約金の設定であるかについては、制度の実態に即して判断されることになり、業務との関連性が強く労働者の利益が小さい場合などは、本来使用者が負担すべき費用として違約金の設定と判断されやすく、業務との関連性が薄く労働者の利益が大きい場合には、貸付金として許容されやすい傾向にあります。そのため、社内貸付制度を設計するにあたっては、まずは、労働者の利益としての位置づけを守るために、労働者の自主的な判断で貸付が申込み可能であることや使途について限定することなく労働者が受ける利益の程度を大きくしておき、業務との関連性を薄くしておくことが重要といえます。3労働基準法は、賠償予定の禁止のみではなく、前借金と賃金を相殺することも禁止しています(同法第17条)。この条文では、前借金つまり会社からの貸付そのものを禁止するのではなく、賃金との相殺が禁止されています。その趣旨は、前借金を発生させたうえで、賃金を相殺して、手取額を低額にすることで、身体拘束や不当な足止めが生じることを防止することに主眼があります。また、労働基準法第24条は、賃金の全額払いの原則を定めており、この規定の趣旨には、相殺禁止も含まれていると考えられています。その趣旨については、労働者の生活経済を脅かすことのないようにその保護を図るものと解釈されています。相殺禁止に関して、判例は、「労働者がその自由な意思に基づき右相殺に同意した場合においては、右同意が労働者の自由な意思に基づいてされたものであると認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するときは、右同意を得てした相殺は右規定に違反するものとはいえない」と判断しており、労働者の同意があれば、相殺が可能と判断しています(最高裁平成2年11月26日判決)。ただし、当該労働者の同意について、「労働者の自由な意思に基づくものであるとの認定判断は、厳格かつ慎重に行われなければならないことはいうまでもないところ」とも注記しており、使用者からの押しつけがあってはいけません。除の前提として、労働者の過半数代表者との労使協定の締結を求めています。返済に充てる場合には、規制の趣旨にしたがって、控除額が労働者の生計を脅かすほどのものとはならない範囲にとどめたうえで、賃金からの控除に関する労使協定の締結を行い、該当する労働者との間で自由な意思による同意を得て行う必要があります。4こると、制度設計にあたっては、①労働者からの申込みを受けて行うものとすること、②使途については制限することなく生活資金として貸付を行うこと、③契約違反などに基づく一括返済の規定はできるかぎり設けず、設ける場合であっても退職を心理的に制限するような条件としないこと、④賃金からの控除を行う場合には、控除額は生活を脅かさない程度に抑制し、労使協定の締結と本人の同意を整えること、などに配慮しておくことが必要となるでしょう。また、労働基準法第24条は、賃金からの控したがって、賃金から貸付金を控除して、れらの労働基準法に基づく規制をふまえ社内貸付制度と違約金・賠償予定の禁止社内貸付制度と前借金相殺の禁止留意事項のまとめエルダー47知っておきたい労働法AA&&Q

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