エルダー2020年9月号
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―つまり、雇用システムを〝ジョブ型〟※に変えていくべきだということですか。―これからは65歳、70歳、あるいはそれ以上の年齢まで働くのがあたり前の時代になります。高齢者の働き方についての展望をお聞かせください。(聞き手・文/労働ジャーナリスト鍋田周一撮影/中岡泰博)高齢者が長く働ける仕組みを整え社会を支える活動に参加してもらうにかなっていません。つまり問題は、これまで企業が評価してきた職務遂行能力なるものが、本当に企業にとって、それだけ高い賃金を支払う価値のあるものだったのか、ということです。日本の企業が評価してきた正社員の能力とは、職務についての能力ではなく、会社の都合でどんな色にも染まることのできる能力だったのではないでしょうか。濱口そうですね。ただ、雇用システムは社会全体のシステムの一部分です。雇用の部分だけを取り出して、そこをジョブ型に変えようとしても、うまくいきません。例えば、日本の学校教育は、職業能力を身につけることとは無関係に行われていますが、そこを変えずに、雇用システムだけをジョブ型に変えたら、スキルのない大量の若者が就職できずにこぼれ落ちていくだけです。日本の新卒採用という方式は、スキルを持たない若者を、職務を限定せずに採用し、社内で育成しながら、どんな仕事にも就けるような社員に育てていくという人材育成システムの入口です。特定の職務と切り離して能力を評価し、それによって処遇を決める雇用システムは、ここを起点としています。このように、雇用システムはほかのシステムと複雑にかかわり合いながら、長い時間をかけて形成されてきたものであることに注意する必要があります。そのため、すべてをただちにジョブ型に変えるのは現実的ではありません。しかし60歳の手前のどこか、40代か50代からはジョブ型になるような制度に変えていくことが、70歳まで、あるいは生涯現役で働ける会社や社会をつくるうえで必要だと思います。濱口可能な社会をつくるには、年をとっても長く働ける仕組みを整えるしかありません。働く高齢者を増やすことは、社会の支え手を増や人口の高齢化が進展するなかで、持続すことです。これは、年金など社会保障制度を持ちこたえさせるという、いわば経済的な支えをたしかなものにするという意味があるのはもちろんですが、経済だけではなく、社会的な支えに高齢者が参加することの重要性にも目を向ける必要があるでしょう。例えば、今回の就業確保措置の一つである有償ボランティアは、高齢者の生活を経済的に支える選択肢として示されていますが、社会を支える活動という観点から見れば、無償であっても大きな意味のあることです。は、会社のなかでひたすら昇進・昇給を追い求める働き方ではなく、途中からでも巡航速度で長く働くレールに乗り換えるような意識を持つことも必要ではないでしょうか。そして、60代、70代まで働き続けるために2020.94※ ジョブ型…… 職務内容を明確に定義し「仕事」に「人」をあてはめる雇用の形。欧米を中心に多くの国で採用されており、職務、労働時間、勤務地が原則限定される独立行政法人労働政策研究・研修機構 労働政策研究所 所長濱口桂一郎さん

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