エルダー2020年10月号
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特集令和2年度 高年齢者雇用開発コンテストⅠエルダー31だ高齢社員から作業工程の勘所を伝えることで、技能伝承が確実に行われる環境が整っている。(3)雇用継続のための作業環境の改善、健康管理、安全衛生、福利厚生の取組み①作業環境改善高齢社員も参加し、全社で5S活動(整理・整頓・清掃・清潔・躾しつけ)を実施している。工場内では、石英ガラスを持って移動するため足元が見えづらく転倒するおそれもあることから、使用したガス管の収納など床の整理を徹底して転倒防止を図った。また、加工の工程では酸水素ガスを燃焼させる必要があることから、職場が暑くなる傾向にある。そこで全社に空調設備を完備するとともに、電動ファンつきの作業服を提供し体調管理に役立てている。②健康管理など年2回の健康診断を実施している。また、保健師の指導で高齢者特有の持病(高血圧症・高脂血症)の管理制度を導入した。これにより高齢社員の体調のリズムが安定し、生産性の向上につながった。そのほか、有給休暇の取得奨励や、定期的に面接を行い職務上・生活面の問題点の聴取などを実施している。さらに、看護や介護に関する休暇の充実を図り、ワーク・ライフ・バランスの実現を目ざしている。個々の要望を聞き取るなかで、法定日数を超えて休暇を与える事例もある。 (4)そのほかの取組み石英ガラスを顧客のニーズに即した形状に加工することが求められるが、製品の作成難度は年々高くなっている。さらに、顧客ごとに求められる製品の形状や質は大きく異なることから、同じものを大量生産するのではなく、顧客に合わせて一つずつ製品の作成を行っている。これらのことから事業を継続するうえで、高齢社員の蓄積された技術の活用と後進への技能の伝承は必須である。加工技術者を支えていくためにも営業担当社員との交流機会を増やし、顧客の希望を直接熟練加工者に伝え、新しい加工方法の開発に努めている。各営業所は、顧客企業が多い地域に開設しており、工場の技術者であっても営業所の営業職と顧客訪問を行い、顧客のニーズ把握に努めている。(5)高齢社員の声Aさん(63歳・男性)は、正社員として機械設計の業務をこなしている。「快適な事務所で多種多様な加工ニーズを具現化していく過程を楽しんでいる。CADの機能が次々と向上しているため、できるだけ早くマスターし、さらに上のステップを目ざしたい」と意欲的である。石英ガラス加工の技術者Bさん(71歳・男性)は、技術の指導に熱心で周囲からの信頼も厚い。「約50年つちかった加工技術を若い社員が懸命に覚えようとする姿がうれしく、目と手が動くかぎり、少しでも長く教えていきたい。日々若い社員に囲まれていると年を忘れる」と語る。(6)今後の課題ハローワークへの求人や産業雇用安定センターの人材紹介で幅広い知識や経験を有する高齢者を積極的に採用することで専門職を増やしていき、より高度な製品開発につなげていきたいと考えている同社。業種が全国的に珍しく、技術者が育ちづらいため、会社の規模は現状を維持しながらも、加工技術者の労働負荷を軽減するために、ロボットや加工補助機械の開発も視野に入れている。現在、高齢社員の多くは技術部門に所属しているが、今後は管理部門や営業部門にも活躍の場を拡大していく方針だ。そのためにも健康で長く働き続けられる職場づくりに力を注ぎ、高齢社員の蓄積された知識や技能の活用と継承という高い目標に向かって果敢に挑んでいく。高い技術を持つ高齢社員が会社の屋台骨を支えている

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