エルダー2020年10月号
4/68

2020.102東京大学 高齢社会総合研究機構 機構長・未来ビジョン研究センター 教授飯島勝矢さんど、幅広いステークホルダー※1のコミットメント※2も欠かせません。いわゆる産・学・官と市民が連携した課題解決型の実証研究、通称「アクションリサーチ」が私たちの大きな役割です。 私たちは、この10年間に四つの柱を立てて取り組んできました。一つ目は生涯現役を含めた高齢者就労のモデル化、二つ目は健康増進、三つ目は心身が弱っていく人たちの生活支援、四つ目は安心してケアを受けながら住み続けるための地域包括ケア。加えて、四本柱を支えるための情報システムの活用も重要です。スマートフォンによるメールのやりとりだけではなく、例えば、情報システムを使った生活支援もその一つです。タブレット端末を自宅に置いてもらい、普段はカレンダーとして使っていても、電球を取り替えたいときや、足腰が弱って買い物に出かけられずに困っているときに端末に悩みをつぶやくと、解決のための案内をしてもらえる。私たちは―東京大学高齢社会総合研究機構(以下、IOG)はジェロントロジー(老年学)の研究をふまえ、超高齢社会対応の街づくりなどで多くの成果を生み出しています。組織と活動の内容について教えてください。飯島 IOGは、2009(平成21)年4月に東京大学総長室総括委員会のもとに設置された研究組織です。私は医学部からきましたが、医学、工学、農学、人文社会系、それにIT系など、幅広い学部の研究者たちが集まり、次世代型の超高齢社会対応の街づくり全般について研究しています。街づくりといっても都市工学的なハード面だけではなく、住み慣れた街に住み続けるための在宅医療や介護との連携など、ソフト面を含めて課題の解決につながる研究全般を行っています。高齢者から集めたデータを単に統計解析し、論文を書くだけで地域が変わるわけではありません。街づくりにおいては、行政をはじめ医師会や歯科医師会などの医療専門職や産業界な「生活のコンシェルジュ」と呼んでいますが、顔見知りのコンシェルジュが定期的に「お変わりありませんか」と声をかけるような、困りごとがあれば悩みを聞いてもらえる仕組みです。以前は熱意のある市民が個別に訪問して声がけをしていましたが、いまは新型コロナウイルスの影響もありますので、情報システムの活用が重要になってきています。―二つ目の柱の健康増進では、長年「フレイル予防」に注力されています。フレイル予防の重要性について教えてください。飯島 フレイルとは英語の「FRAILTY」が語源です。日本語で「虚弱」を意味し、心身の活力が低下した状態をさす言葉として、2014年に日本老年医学会が命名しました。フレイルには三つの特徴があります。第一に、フレイルは健康と要介護の中間の不安定な時期にあたり、多くの人が健康な状態からフレイルの段階を経て要介護状態におちいります。第二に、フレイルは多面性を持ちます。具体的には足腰が弱くなる「身体的フレイル」、認知機能にかげりが出る「心理的・認知的フレイル」、地域活動への参加など人と人のつながりが薄くなる「社会的フレイル」など、多面的な要素の負の連鎖によって自立専門分野を横断して集まった研究者が課題解決に向けて総合的な研究を行う※1 ステークホルダー……企業・行政・NPOなどの利害と行動に、直接・間接的な利害関係を有する者※2 コミットメント……単なる口約束ではなく、責任をもってかかわること

元のページ  ../index.html#4

このブックを見る