エルダー2020年10月号
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2020.1048が年功賃金の最も重要な点です。第二は、図表1をみて分かるように、定年時の賃金が成果を上まわる、つまり定年時には成果を上まわる賃金が支払われていることです。このことは、定年後の高齢社員の賃金は、少なくとも、この上まわる部分だけ削減する必要があることを示しています。高齢社員の賃金を考える際に考慮すべき重要な点です。賃金の決め方を変える二つの力3■会社が求めることこうした年功賃金は、前述した二つの力によって変化しつつあります。まずは会社が社員に求めること、つまり労働サービスの需要構造の変化です。会社はこれまでにも増して変化が速く、不確実性の大きい市場環境の下にあります。そのため、これまでと同じように社員を教育し、能力の向上を図っても、能力が将来にわたって成果に結びつくことがむずかしくなり、能力に対して払われる賃金と成果の間に乖かい離りが発生するようになります。このことは人材投資の観点からみると、次のようになります。成果の出る前に能力に対して賃金を払うことは一種の人材投資です。人材投資は設備投資や研究開発投資と同じように、市場環境の不確実性が大きくなると、成果に結びつかない可能性が大きくなります。その結果、能力に対して払った賃金(つまり人材投資)と成果の間に乖離が起こるということになります。このことは、管理職レベルの職能資格に格づけされ、高い給与をもらっているにもかかわらず、管理職レベルの仕事に就くことができない多くの中高年社員が登場している、という現象に典型的に現れています。企業はこれに対応するため、能力より成果に直結する仕事の重要度を重視して賃金を決める傾向を強めます。管理職レベルの社員を中心にして、能力重視の職能資格制度と職能給に代わって仕事重視の役割等級制度と役割給をとる企業が増えているのはそのためです。これが人事管理や賃金の決め方の成果主義化です。■社員が求めること社員の「こう働きたい」という労働サービスの供給構造の変化も賃金の決め方を変える大きな力になっています。これまでの人事管理は、正社員は会社の指示にしたがって働く場所、働く時間、仕事内容を柔軟に変えることのできる社員(これを「無制約社員」と呼ぶことにします)であることを前提につくられてきました。しかし、家事・育児、介護などの生活上の都合と両立を図りながら働くこと、つまり働く場所などに制約のある、多様な働き方を希望する社員(これを「制約社員」と呼ぶことにします)が増えています。しかし、正社員は無制約社員であることを前提とする従来型の人事管理では、育児・介護に苦労する社員が仕事との両立に苦労していることから分かるように、制約社員の有効活用を図ることはできません。そうなると企業は多様な働き方に対応できる賃金の決め方をとることが必要になり、転勤のある総合職に対して転勤のない一般職の賃金をどうするのか、正社員に対してパート社員の賃金をどうするのかなどについていろいろな工夫をしてきました。そうした工夫のなかの成功例をみると、共通することがあります。それは、年功や能力ではなく仕事の重要度を重視する賃金の決め方をとっていることです。そうなると多様な働き方を求める制約社員を有効に活用するには、正社員の賃金の決め方を能力重視から仕事重視に変えることが必要になります。「これからの賃金」のモデル4最後に、これからの賃金の決め方がどうなる

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