エルダー2020年10月号
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エルダー49かを具体的に考えてみます。まずは、考える際にふまえるべき二つのポイントがあります。第一のポイントは、これまで説明してきたように、会社の求めることからみても、社員の求めることからみても、賃金の決め方は年功賃金から仕事重視の成果主義型の賃金に転換しなければならない、ということです。第二のポイントは、図表1で若手社員を訓練期としたように、わが国の企業が、職業経験のない若手社員を一人前の職業人に育てるという人事管理をとっていることです。これは日本型の人事管理の最も重要な部分であり、これからも維持されるべきと考えられます。そうなると、この訓練期はどのような仕事につき、どの程度成果を上げたのかより、能力をどの程度向上できたのかが重要になるので、賃金は能力に基づいて決めることが合理的になります。このようにみてくると、賃金を仕事重視で決めることと、訓練期には能力重視で決めることを組み合わせた賃金の決め方を設計する必要があります。具体的には、若手社員には訓練期であることから職能給などの能力重視の賃金、それ以降は役割給などの仕事重視の賃金とするというのが賃金の決め方のこれからの方向になり、それをモデル的に示すと図表2になります。その際には、能力重視の賃金から仕事重視の賃金にいっきに移行するという方法もありますし、段階的に移行するという方法もありますが、シニア社員にあたる管理職あるいは管理職相当の社員には仕事重視の賃金を適用することが求められます。そのため図表2に示すように、シニア社員の賃金は成果と一致するように決める必要があります。管理職などに年俸制や役割給を適用する企業が増えていますが、それは、ここで示した変化の方向に沿った対応といえます。ここで図表1と図表2を比べてください。どちらの場合も若手社員は訓練期ととらえているので、企業が教育のために負担する「A」に違いはありません。しかし図表2では図表1にある「C」がなく「A=B」が長期決済条件になるので、「B」は図表1より小さくなります。このことは成果主義型の賃金は、年功賃金に比べて中堅社員の段階では上昇が急になり、シニア社員になると停滞するという特徴をもちます。これまで説明した変化の方向は、高齢社員の賃金を考えるにあたって注意すべき重要なことを示しています。管理職などのシニア社員の段階では賃金は成果に見合って決定されるので、定年時の賃金が図表1の年功賃金と異なり成果を上まわる水準に設定されるということはありません。ですから現役社員の賃金が年功賃金であるのか、成果主義型の賃金であるのかによって、定年後の高齢社員の賃金の決め方は異なることになります。このことは高齢社員の賃金を具体的に設計する際に重要なので、忘れないようにしてください。(賃金/貢献度)若手社員中堅社員シニア社員入社定年貢献度(成果)長期決済条件 A=BAB賃金※筆者作成図表2 成果主義型賃金のモデル図高齢社員の

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