エルダー2020年10月号
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行政機関や報道機関などへの通報に必要な事由が緩和されました。通報者の保護については、通報者に対する解雇や契約解除の無効、不利益取扱い(降格、減給、退職金の不支給など)が禁止されています。新たに改正で通報者に加えられた役員については、解任された場合の損害賠償請求権を確保するという方法で保護を図っています。通報者保護の実効性を図る観点から、行政機関からの勧告や命令に加えて、違反者に対する公表措置が明文化されたほか、通報者の特定に関する守秘義務を強化して罰則による規制も加えられました。通報対象事実について2ありとあらゆる通報について、公益通報として扱う必要があるわけではありません。公益通報の通報対象事実は特定されています(法第2条第3項)。主な通報対象事実は、個人の生命、身体の保護、消費者の利益の擁護、環境の保全、公正な競争の確保にかかわる規制として、罰則が定められた法令を根拠としています。刑法(傷害罪や横領罪など)は当然ながら、金融商品取引法(インサイダー取引など)、個人情報保護法(個人情報の漏えいなど)が定められているほか、労働基準法や各業法による規制なども幅広く定められています。自社が行政から規制される根拠法がある場合には広く含まれると考えておく必要がありますが、犯罪行為であり罰則が定められているものに特定されている点には、留意する必要があります。通報先の選択について3通報対象事実に関する通報先については、大きく分けると以下の3種です。① 自社(内部通報窓口)または自社が指定したもの(外部通報窓口)②規制権限を有する行政機関③ 拡大防止に必要と認められるもの(報道機関など)通報先については、①〜③記載の通りとなりますが、今回の改正で、②、③に対する通報の要件が緩和されました。まず、②については、通報者の氏名、住所、通報対象事実の内容とその発生した、またはまさに生じようとしていると思料する理由、適切な措置が取られるべきと思料する理由を明記した書面または電磁的方法※により明記して提出することで、保護されることになりました。次に、③についても、公益通報者を特定させるものであることを知りながら、正当な理由がなく、役務提供先が情報を漏らすと信ずるに足りる相当な理由がある場合に、報道機関などへ通報できることとなりました。公益通報者は、匿名であっても保護されなければならず、また、公益通報者が特定されないように配慮することが必要とされますが、それが守られないという懸念を抱いている場合には、完全な第三者である報道機関などへの通報が可能となっています。内部通報者を特定させる情報に対する守秘義務4これまでは、法律上の義務としてではなく、プライバシーおよび不利益取扱いの防止の観点から、「公益通報者保護法を踏まえた内部通報制度の整備・運用に関する民間事業者向けガイドライン」において、通報者の特定に資する情報の管理に対する配慮が求められていましたが、法律上の義務とまではされていませんでした。今回の改正では、この点が、法律上の義務として位置づけられ(法第12条)、さらに違反者に対しては罰則まで定められています(法第21条)。この点は、前述の特定が維持されない場合の報道機関などに対する公益通報の要件とも共通しますが、通報者の匿名性の維持、特定させないことなどが、通報者による制度利用の障害排除につながることが意識されているものと考えられます。※ 電磁的方法……パソコンなどの電子計算機で処理可能なデジタルデータのことエルダー51知っておきたい労働法AA&&Q

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