エルダー2020年10月号
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■■■■■■■■人事用語辞典いまさら聞けないエルダー55通りなのは、男性のグラフで比較するとわかりますが、20年以上前と比較して、全般的に賃金カーブは低い水準にあります。これは、バブル経済崩壊以降に男性の雇用形態が正社員以外に分散したことや、次に述べる昇給やベースアップを抑制してきたことが影響しています。給与はなぜ上がるのか傾向を把握したところで、賃金の上がる方法について説明します。大きな要素は「昇給」、「ベースアップ(ベア)」、「最低賃金の改定」の三つです。「昇給」は、能力レベルの向上や年間の勤続に報いて給与が一定額(率)増える仕組みをさします。年に1回行われることが多いため「定期昇給」と呼ばれることもあります。昇給のある会社では一般的には給与の最大額と最小額を定めた「給与テーブル」があり、その範囲内で給与を上げていくことになります。次の「ベースアップ」は、給与テーブル自体を底上げする行為です。テーブル自体が引き上げられるので、適用される社員も全員、同額(率)上がるのが基本です。日本経済団体連合会(経団連)が公表している「昇給・ベースアップ実施状況調査結果」(2019年)を見ると、2013(平成25)年まではベースアップはほぼ実施されていませんが、2014年以降は調査企業の半数程度がベースアップを実施しています。ベースアップの本来の目的である物価上昇への対応が、長引くデフレ経済により不要になっていましたが、2014年以降は成長戦略の一環として政府主導で推進されたことに起因しています。最後に「最低賃金の改定」です。最低賃金は1時間あたりの給与(時給)の最低額を示したものであり、毎年10月に改定されるのが通例となっています。基本は都道府県別に定められ、一部産業別に定められています。2019(令和元)年10月の改定では、全国加重平均では874円から901円へと約3%のアップでした。2018年10月の改定も同様の傾向であり、先述の経団連調査によると昇給・ベースアップなどを合わせた給与の引き上げが2%程度であるのに対し、毎年比較的高い推移での見直しが図られています。しかし、本稿を執筆している8月時点では、2020年の改定は新型コロナウイルスによる景気悪化の状況を受けて、現状程度にとどまることが想定されています。高齢者雇用と賃金カーブ最後に高齢者雇用と賃金カーブの関係について見ていき、本稿を締めくくりたいと思います。図表を見ていくと、50代半ばをピークにカーブが引き下がっています。これは後進に道を譲ることを目的に役職を外れ、その分の給与が減額される「役職定年」や、昇給停止の制度が50代に設けられていることなどが要因となっています。また、図表のグラフからは読み取れませんが、60歳でカーブが落ち込み、それ以降は横ばいになっています。60歳以降の雇用は約8割の会社が1年更新の再雇用制度を採用しており、雇用の継続性がない前提で、昇給制度を設けていないことに起因しています。モチベーションの観点や、ほかの年齢層との公平性の観点から、これらの施策をあらためるべきとの意見がある一方で、今後のさらなる雇用延長を見据えると、人件費全体の検討が必要です。そのため、カーブの上昇を緩やかにする分、高齢者雇用における水準落ち込みも緩やかにするカーブ全体の見直しに取り組んでいる会社も増えてきています。☆  ☆今回は「賃金カーブ」について解説しました。次回は、高齢者雇用においても必要性が高まっている「人事評価」について取り上げる予定です。

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