エルダー2020年10月号
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2020.104東京大学 高齢社会総合研究機構 機構長・未来ビジョン研究センター 教授飯島勝矢さんしゃべりするだけで活動量は増えます。私たちの研究では、こうした非運動性の身体活動量が多くなることがフレイル予防につながることがほぼ証明されつつあります。―三位一体のフレイル予防は働くこととも共通する要素があるように思います。高齢者就労のモデル化にも取り組んでいますね。飯島 働くことが直接的に影響を与えるのは社会参加と非運動性の身体活動量です。すべての人が運動をできるわけではありませんし、通勤で自転車に乗ったり、歩いたり、力仕事をすることで身体活動量は高くなりますが、大事なことは継続することです。そのためには仕方なくやるのではなく、やりがいや生きがいを感じられることが重要です。時間が経つのも忘れるぐらいに打ち込める仕事がある人は、継続性が高いでしょう。私たちが実践している高齢者就労のキーワードは、「ジョブマッチング」と「ワークシェアリングシステム」です。タブレット端末にやりたい仕事と働ける日時を入力し、例えば4人の高齢者が1週間の業務をシェアして働く仕組みです。体力を考慮して週3日で働きたい人もいますし、余暇を楽しむ自由な時間も必要です。この仕組みは、千葉県柏市での取組みをベースに複数の自治体ですでに始まっています。―高齢者に働いてもらううえで配慮すべきポイントは何でしょうか。飯島 定年後もいままで勤めた会社で継続して働くこともあるかもしれませんが、定年を機に自宅に近い地域の会社などで働き始める人もいるかもしれません。やはり高齢者に働いてもらう以上は労働環境を改善してほしいと思います。例えば、都心のオフィスで長年働いていた人が、持病を抱えながら地域の工場に週3〜4日勤めるとしても、蒸し風呂のような労働環境だと脳梗塞を起こしやすくなります。また、生鮮食料品を扱う職場などで床が濡れていると、若い人と違って転倒しやすく、骨折することがよくあります。企業には、なるべくリスクが少なくなるように、労働環境には配慮してほしいですね。―来春から70歳までの就業機会の確保が努力義務として各企業に課せられます。企業が高齢者を活用していくうえでのアドバイスをお願いします。飯島 私は安倍内閣時に設置された「一億総活躍国民会議」のメンバーとして、全世代型雇用の観点からは、高齢者だけではなく若者の雇用も重要視していますが、こと高齢者に関していえば、これまでつちかってきた能力を持っています。これは20〜30代の若者では乗り越えられない部分です。企業には、書類にハンコを押すといった定型的な仕事だけではなく、高齢者がつちかってきた豊富な経験や技術をベースに、創造性を発揮できるような仕事をできれば与えてほしい。知識や人脈を活かせるような仕事もきっとあるはずです。いまの高齢者は身体機能や認知機能、情報を取得するリテラシーを含め、昔に比べて10歳ほどは若返っています。60代半ば以降も活き活きと働いてもらうために、高齢者がつちかってきた能力をどのように活かすのかは、企業の工夫次第だと思います。高齢者がつちかってきた豊富な経験や技術は創造性を発揮できる仕事に活かすべき(聞き手・文/溝上憲文 撮影/福田栄夫)

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