エルダー2020年11月号
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2020.1114◦人事管理かつての再雇用制度のもとで嘱託職員であった高齢職員は、定年制廃止に合わせた準職員と嘱託職員の位置づけの見直しにより正職員となったものの、賃金水準は継続雇用時と同じ60歳到達時の水準となる。理由は、高齢職員は70歳まで正職員(あるいは限定正職員)として働き続けるのは肉体的に厳しく、途中で嘱託職員に変更している者が多いという現状があるためである。しかし、今後は正職員として働き続けるケースもあり得るため、人事管理制度の環境整備が課題となっている。(2)高齢職員を戦力化するための工夫◦高齢者が活躍できる職場の創出高齢者が無理なく働ける就業形態を整備するために、それまでの月給制から時間給制を取り入れることになった。その背景には夜勤専従制度を導入するため、月給制度の見直しが必要となったことがある。12カ月分の給与の合計額を年間勤務時間で割って時間給を算出し、日勤と夜勤専従スタッフの給与体系を明確に切り分けることにより、個人のライフスタイルに応じた勤務時間帯や勤務形態の選択を可能とした。例えば、他社を定年退職後にヘルパーとして入社した80代前半の職員は、週3日・1日30分ずつという短時間で、排泄介助などの業務を担当し、本人も活き活きと働いている。また、資格が必要とされる介護現場で、見守りや調理など、生活の延長線上でできる資格が不要な仕事を業務として切り分け、短時間でも高齢職員にたずさわってもらうことで、専門職の助けとなっている。一方、年齢にかかわらず、入社後の資格取得の支援を行うことで、高齢職員のモチベーションアップにつながっている。◦面談の実施同法人の創業者が理念として掲げた「人は尊厳を持ち、権利として生きる」という精神を具現化するために、利用者の満足度はもちろん、スタッフが満足できる職場風土の構築を目ざしてきた。多様な働き方を実践する職員が各自の役割を明確に理解し、それぞれがコミュニケーションを良好に取れるよう、月に1回以上、所属長が全職員に対して面談を実施している。面談によって法人が期待している役割が明白になり、職員自身の考え方とのズレをすり合わせることができると同時に、問題点がはっきりし、解決策を見出す手立てとなっている。(3)雇用継続のための作業環境の改善、健康管理、安全衛生、福利厚生の取組み◦夜勤の専門スタッフの採用労働時間を短縮しつつ、高齢職員が長く勤められることを目的に、夜勤専門の夜勤専従スタッフを採用し、日勤と夜勤を分けた勤務体制を整備した。また、ワークシェアリングの考え方に基づき、1夜勤を2名で担当する仕組みになっている。ローテーションとしては月の半分を夜9時から翌朝7時まで勤務するが、担当を週の前半と後半で分けるため、まとまった休みを取ることができると、職員からは好評である。◦安全管理と健康管理労働災害の防止および職員の健康の維持・増進を図ることを目的とし、安全衛生に関する方針を定めている。環境整備チームを中心とした「5S活動※3」を通じて、職員が職場内における労働安全衛生上の課題と改善策を出し合い、日々安全な職場環境づくりを進めている。 また、健康診断については、実施機関が来所して行っており、勤務時間中の受診が可能となっている。一方、介護業務では一番の課題とされる腰痛対策を重視しており、予防のために入念な体操を行っているほか、中腰姿勢の維持や重量物の持ち上げによる身体への疲労と負担を軽減させ腰痛などの疾病リスクを予防するスマートスーツ※4を購入している。◦キャリア支援、子育て支援介護職員初任者研修などに対する受験日の職務免除や受験費用の補助をはじめ、介護福祉士などの資格取得への一時金支給を、高齢職員にも実施している。また、子育て中の女性に対しては、法定を上回る独自の産前休暇制度や子の看護休暇取得などを推進しているほか、子ども手当の支給や保育園を補完する企業内託児室の設置などで、働く女性を支援している。※3 5S活動……職場の安全衛生活動の一つ。「整理」、「整頓」、「清掃」、「清潔」、「しつけ」のこと※4 スマートスーツ……着用して作業を行うことで、介護労働などの疲労や身体負荷を軽減することができるロボット技術を応用して開発された作業用の補助装具

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