エルダー2020年11月号
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エルダー31するという対応には未来はありません。これは第2回でも強調したことです。さらに同法は、高齢社員の人事管理の基本骨格を規定し、現状をみると多くの企業は「60歳定年を契機に再雇用し、65歳まで継続雇用する」という基本骨格をとっています。したがって、それを前提に活用戦略、さらには「あるべき賃金」を考える必要があります。これが第二のポイントです。このようにいうと、これらのポイントは定年延長や定年制廃止をとる企業には関係のないことと思われるかもしれませんが、そうではありません。定年を延長しようとも、あるいは廃止しようとも、社員は高齢期のある時期に役割とキャリアを転換することが求められます。この転換後の社員がここでいう高齢社員にあたり、企業はその社員の活用戦略や「あるべき賃金」を新たにつくる必要があります。「短期雇用型」の特性に合わせた「仕事原則」2■高齢社員は「短期雇用型」社員そこで「60歳定年を契機に再雇用し、65歳まで継続雇用する」という基本骨格のもとで、企業はどのような活用戦略をとり、それによって高齢社員はどのような特性を持つ社員として雇用されるのかを考えてみます。まずは、高齢社員は「短期雇用型」の特性を持つ社員として雇用されるという点が重要です。「60歳定年を契機に再雇用し、65歳まで継続雇用する」が人事管理の基本骨格なので、雇用される期間は最大5年と短期になります。そうなると、「いまある能力を、いま活用する」が企業のとる活用戦略の基本になり、高齢社員は「いまある能力を、いま発揮して会社に貢献する」社員ということになります。「いまある能力」を活用するのですから、定年前と同じ分野の仕事で働くことが活用の基本になります。ここでは、この特性を「短期雇用型」と呼んでいます。それに対して正社員は、「長期的な観点から育成し活用する」という活用戦略のもとで「長期雇用型」社員としての特性を持ちます。このようにいうと、高齢社員には教育は必要ないと思われるかもしれませんが、そのようなことはありません。職場の戦力として活躍している高齢社員に共通することの一つは、常に新しいことを学ぶ姿勢を持っていることです。したがって、ここでは新規採用された若者のように、遠い将来を見据えて基礎的なビジネススキルや専門知識を教育することはないという意味で、高齢社員を「いまある能力を、いま活用する」社員としているのです。ですから、高齢社員といえども、いま従事している仕事に必要とされる新しい知識・スキルを習得することは必要です。このことは次のようにいうこともできます。会社にとって社員教育は、将来の成果を期待して行う人材に対する投資であり、それには、すぐ成果に現れる短期投資と成果が現れるまで長い時間が必要な長期投資があります。この観点からみると、正社員は長期投資の対象になりますが、高齢社員は雇用期間が短いので長期投資の対象にはならず、もっぱら短期投資の対象になります。■賃金決定の「仕事原則」「短期雇用型」の特性は高齢社員の「あるべき賃金」を規定します。図表は「あるべき賃金」を考える枠組みです。この枠組みは本連載第3回の「賃金の基礎」のなかで説明した考え方で、仕事プロセスに対応して賃金決定要素が示されています。例えば正社員であれば、「長期的な観点から育成し活用する」社員であるので「将来に期待して払う」、つまり将来の成果に結びつくことが期待される「能力レベル」に対して払う職能給などが合理的な賃金ということになります。しかし「いまある能力を、いま活用する」社員である高齢社員には「いま払う」が、つまり成高齢社員の

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