エルダー2020年11月号
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エルダー33からみて働き方が制約的になります。連載の第2回でも紹介したこの現状は、高齢社員が働く場所などに制約なく働く「無制約社員」から、制約を持って働く「制約社員」に転換することを意味しています。このように社員特性が変われば、それに合わせて「あるべき賃金」は設計される必要があります。この「無制約社員」であるか「制約社員」であるかは図表の「労働給付能力レベル」の違いを示しています。第3回の「賃金の基礎」で説明したように、「労働給付能力レベル」が高い「無制約社員」は、業務ニーズに合わせて労働サービスを提供できるという点で会社にとって価値の大きい社員なので、たとえ仕事が同じであっても、「労働給付能力レベル」の低い「制約社員」に比べて賃金は高く設定される必要があります。この賃金決定の原則を図表に示したように「制約配慮原則」と呼んでいます。さらに社員にとってみると、「無制約社員」であると、会社の指示にしたがって働く場所を変えるなどによって、生活上の負担や新しい仕事に対応する負担を負うリスクが大きくなります。「無制約社員」の賃金が「制約社員」より高いのはこのリスクに対する報酬であるので、「無制約社員」が「制約社員」を上まわる賃金部分を「リスク・プレミアム手当」と呼ぶことにします。■「制約配慮原則」は多様な社員に 適用される原則ここで注意してほしいことは、「制約配慮原則」は高齢社員のみに適用される原則ではないことです。例えば、転勤のある(つまり「無制約社員」としての)総合職と、転勤のない(「制約社員」としての)一般職は、同じ仕事、同じ能力であれば同じ賃金とするのが基本になりますが、総合職の賃金は「リスク・プレミアム手当」分だけ一般職より高く設定されます。同様のことは、働く場所などが変わる正社員と変わらない非正社員の間でもみられます。このようにみてくると、社員の多様化が進み「制約社員」が多くなると、「制約配慮原則」が重要な賃金決定原則の一つになり、高齢社員はそのなかの一タイプということになります。さらに、この原則にしたがって高齢社員の「あるべき賃金」を設計するにあたって問題になることは、「リスク・プレミアム手当」をどの程度の水準に設定するかです。これには会社を超えてあてはまる最善の水準などはありません。他社の状況、つまり市場相場を参考にし、自社の事情を考えて設定する必要があります。なお「制約社員」の賃金は「無制約社員」より1〜2割程度低いというのが市場相場の平均像ですが、その詳細なデータについては前述した「職務評価を用いた基本給の点検・検討マニュアル」を参考にしてください。企業規模別データ、産業別データが入手できます。今回は社員特性が定年を契機に「長期雇用型」から「短期雇用型」へ、「無制約社員型」から「制約社員型」へ転換するので、高齢社員の「あるべき賃金」はそれに合わせて「仕事原則」と「制約配慮原則」に沿って設計される必要があることを説明しました。定年を契機に賃金が変化したとき(その多くは、低下ですが)、「定年したから」では高齢社員が納得できる説明にはなりません。高齢社員を戦力化するには賃金を合理的に決定する必要があり、ここで示した二つの原則はそれを実現するための原則なのです。それでは、この二つの原則に基づいて高齢社員の賃金を設計するにはどのような手順をふむ必要があるのか、その結果できあがる「あるべき賃金」はどのような形態になるのか。最終回である次回は、この点について解説することにします。高齢社員の

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