エルダー2020年11月号
4/68

2020.112アテナHROD 代表・特定非営利活動法人日本人材マネジメント協会 副理事長山﨑京子さん感できることが大事なのです。 心理的安全性が確保された居場所がなくなることは、退職期を迎えたシニアに心の葛藤をもたらします。しかし、それまで勤めていた会社に、引き続きそのような居場所を保障してもらうことは期待できません。いまの企業に、福祉的雇用のコストを負担し続ける余力はないからです。だとすれば、一人ひとりが、「自分の居場所は自分でつくる」という自覚を持つ必要があります。これがシニアのキャリア開発における基本的な視点です。―たしかに「会社が何かしてくれるだろう」ではなく、自分で何とかしようという自覚は必要ですね。その一方で、会社が変革を求められることもあるのではないでしょうか。山﨑 現在の再雇用制度のような、定年前後で人事制度が接合しない制度設計はあらためるべきです。とくに再雇用後に人事評価の対象から外れ、一律の賃金になるような仕組みでは、ただ時間を切り売りしているのと同じ―シニアのキャリア開発について、まず基本的な考え方をお聞かせください。山﨑 シニアにかぎらず、仕事が私たちにもたらす価値は三つあります。一つ目は金銭。二つ目は所属という価値です。組織や仕事仲間の一員であるという安心感に価値があります。三つ目は自分を認めてほしいという欲求や、生きがい・やりがいが満たされることです。 年金と雇用は、一つ目の価値をめぐる問題です。また、働くことで得られる生きがいや、自己実現という三つ目の価値を重視する意見もよく耳にします。 他方、二つ目の価値については実際に再雇用や再就職をしたシニアの方々に聞くと、「自分の居場所がなくなってしまった」という切実な声があります。いま「心理的安全性」という言葉が注目されています。これは、自分を受け入れてくれる、安心が約束された集団に帰属している状況をさします。つまり働くことを通じて、気心の知れた仲間がいると実で、インセンティブが働きません。 こうした制度設計の見直しとあわせて、制度の運用面でも工夫が必要です。現場では、年下の上司の下でシニアが働くのが普通ですが、この場合「年上の部下を抱える管理職」のマネジメントスキルの向上が不可欠です。最近は、そのような管理職を対象とした研修を依頼されるケースが増えてきました。―具体的には、どのような研修を行うのですか。山﨑 第一に、シニアの活用が経営戦略のうえで重要であることを、会社のトップから管理職に語ってもらいます。労働力人口が減少に向かうなかでシニアの活用が必要であること、シニアが積み上げてきたキャリアを企業の知的財産として活用すべきであること、その知的財産を環境の変化に合わせて柔軟に活用するため現場の管理職のマネジメントスキルが問われていることなど、シニア活用にトップが本気であることを管理職に理解してもらうことが出発点です。 第二に、管理職には部門目標達成というミッションがあり、それに向けてチームのリソースを最大限活用する必要があります。そのリソースの一つであるシニアを活用するたシニア人材というリソースを活かすためには管理職のマネジメント力向上が不可欠

元のページ  ../index.html#4

このブックを見る