エルダー2020年11月号
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よつて定められた賃金」に該当する場合には、時間外労働の時間数に応じて歩合給自体が当然に発生するものではないことから、発生した歩合給に対する割増のみで足ります。計算式としては、算定期間(賃金締切期間)内の「歩合給」×0・25となり、これに相当する割増賃金を支払うことで足ります。出来高払制その他の請負制によって定められた賃金について2歩合給と呼称している賃金がすべて「出来高払制その他の請負制によつて定められた賃金」に該当するとはかぎりません。そもそもの賃金体系が出来高払制であるか否か争われる場合があります。例えば、運送業において、使用者が、ルート別に単価を設定しており、当該ルートを運行した「回数」に応じて賃金が変動するとして、出来高払制である旨主張したものの、「ルート別単価は、ルートごとの標準的な収受運賃、拘束時間、走行距離、作業内容等を勘案して決められたものであって、運転手の仕事の成果である現実の売上高や配送量あるいは運送時間によって増減するものではないことが認められる。そうすると、被告の主張する上記賃金体系は、そもそも、出来高払その他の請負制の実質を備えていないというべき」として、出来高払制としての性質が否定された裁判例があります(千葉地裁松戸支部令和元年9月13日判決)。同裁判例では、出来高払制その他の請負制においては、使用者は、労働時間に応じ一定額の賃金の保障をしなければならないにもかかわらず(労働基準法第27条)、そのような保障はなされていなかったことも、出来高払制を否定する要素として考慮されています。また、典型的な歩合給として評価されるような売上げや利益などの金銭的な成果に対して支払われるものではない運送業における各種手当について、「運行回数、運送距離ないし走行距離、積荷の積載量、売上げといった作業の成果とは関連していないこと」などを理由に、仕事の成果に応じて定められた賃金であるとはいえないとして、出来高払制賃金であることが否定された例もあります(東京地裁平成29年3月3日判決)。歩合給を採用して出来高払制にするにあたっては、給与のすべてを出来高払制にすることなく労働基準法第27条が定める保障給を考慮しておくことに加えて、歩合給がいかなる指標と連動するのか、当該指標を回数ではない成果と関連させておくことも重要です。歩合給に関する最高裁判例について3近年、歩合給に対する時間外割増賃金の支給に関して、最高裁で判断された事例があります(最高裁令和2年3月30日判決)。タクシーの乗務員に対する売上高に連動する歩合給の支給に関して、当該歩合給の増加に応じて乗務員の時間外労働に対する割増賃金を控除する仕組みを採用し、時間外労働が生じた場合の歩合給額と時間外労働をせず歩合給を得た場合の計算が一致するようになっており、タクシー乗務員らが会社に対して控除された割増賃金の支払いを求めた事案です。過去の判例において、手当の支給によりあらかじめ割増賃金を支給することについては、時間外労働との対価性が必要とされていたところ(最高裁平成30年7月19日判決)、本判例では時間外労働をしたとしても、歩合給が減少することになれば、「出来高払制の下で元来は歩合給として支払うことが予定されている賃金を、時間外労働等がある場合には、その一部につき名目のみを割増金に置き換えて支払うこととするもの」と判断しています。このことは、この歩合給に対応した時間外割増賃金の計算方法が、実質的には割増賃金の減額を行っているに等しいことから、その対価性に欠けるとの観点により、割増賃金の支払いに不足があるとの判断がなされています。歩合給を活用する場合においても、そのことをもって、時間外割増賃金の減額につながるような制度を採用することは、この最高裁判例が示した基準に抵触するおそれがあるため、制度構築にあたっては、この判例にも十分に留意する必要があります。エルダー39知っておきたい労働法AA&&Q

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