エルダー2020年11月号
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約を後から締結する副業先において、労働時間の設定に関して、本業の要望を受け入れてもらうことが出発点となります。割増賃金については、本業は自らの時間外労働に対する割増賃金のみを支払い、副業先は自らの事業場における労働時間のすべてに割増賃金を支給することで、具体的な時間を双方で管理することなく、割増賃金の不足が生じないようにすることが可能です。要するに、副業先においては、法定時間外労働の発生の有無にかかわらず割増賃金を支給することになりますので、労働者は法定の割増賃金以上の金額を受給することとなり、割増賃金の支給に関しては、労働基準法に違反する心配がなくなります。健康に対する配慮について3労働契約法は、使用者に労働者に対する安全配慮義務を求めており、このことは、副業および兼業である場合においても、同様です。この場合、前述の労働時間管理とも関連しますが、過労死や精神疾患に関する労災認定基準においては、過剰な時間外労働や連続勤務が重要な要素とされているところ、副業および兼業において、時間外労働が過剰か否かや連続勤務についてどのように配慮する必要があるのかが、問題となります。基本的な対応方針としては、就業規則や労働契約において、長時間労働や連続勤務によって労務提供に支障がある場合には副業および兼業を禁止または制限できるような規定を設けておくことで、万が一の場合の過剰な時間外労働の制限が可能となるように備えておくべきとされています。また、副業および兼業の状況について、報告を受ける機会を設け、健康上の問題が確認される場合にも、休暇の付与や産業医との面談など適切な措置を実施することも重要です。しかしながら、前述の管理モデルを前提に運用する場合には、各社は具体的な実労働時間を把握しきることができなくなるおそれもあるため、健康管理の側面については、労働者自身に自己管理の意識を強く持ってもらうことも重要です。また、実労働時間の具体的な把握が不要な運用を採用するとしても、働きすぎにならないように時間外労働自体を抑制することなどについても労使間で協議のうえで適切な措置を講じることが重要となります。その他の留意事項について4企業にとっては、秘密保持義務や競業避止義務についてもあらかじめ確認しておかなければ、労使間で紛争が生じるおそれがあります。退職後の競業避止義務は職業選択の自由の観点から制限される程度が大きいですが、副業および兼業においては、使用者に対する競業避止義務があると一般に考えられています。したがって、副業や兼業を承認する基準として、副業や兼業を行う会社が競業企業であるか確認しておくべきでしょう。副業や兼業の許可前には、このことを面談によって把握する機会を設けておくことが必要と考えます。また、秘密保持義務については、就業規則などに定められている企業が多いと考えられますが、副業および兼業先の企業においても遵守しなければならないことについては、改めて注意喚起をしたり、秘密保持義務および競業避止義務に関する誓約書などを改めて取得することも必要となると考えられます。1週間の所定労働時間が短い業務を複数行う場合には、雇用保険などの適用がない場合がありますが、令和4年1月からは65歳以上の労働者本人の申出により、二つ以上の事業所の労働時間を合算して雇用保険を適用する制度が運用される予定です。社会保険については、複数の事業所でいずれも被保険者要件を満たす場合には、いずれかの事業所を管轄する年金事務所および医療保険者を選択させる必要があり、各事業主は報酬の額により按分した保険料を納付することになるため、副業の承認の際に労働者に副業先の所定労働時間や管轄の選択についても確認しておくことが必要となります。エルダー41知っておきたい労働法AA&&Q

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