エルダー2020年11月号
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2020.1146フランスは、そのような政策を実行した代表的な国の一つです。フランスの年金の支給開始年齢は、当初65歳でした。しかし、1970年代初頭に60歳以上の失業者に所得補償をすることで、年金支給開始年齢以前に早期引退できるようにし、1983(昭和58)年には年金支給開始年齢そのものを60歳へと引き下げました。そして、失業者に対する所得補償も57歳からと、対象年齢が引き下げられ、より早い時期からの引退を可能にしました。ドイツでは65歳が年金の支給開始年齢でしたが、1972年に、条件が整えば63歳からの減額なしの早期年金支給を始め、早期引退を可能にしました。加えて、障がいや失業などの理由があれば年金の支給条件を緩和し、より早期の引退を可能にしました。また、イギリスでは1977年に、高齢者に定額の手当を支給して彼らの早期引退をうながし、若年層への仕事の移譲を進めるという制度が導入されました。他方アメリカでも65歳支給の年金(Social Securityのこと)の62歳からの早期受給を可能にしています。ちなみに、このような年金制度などの影響をみるために、11カ国について分析した研究では、それぞれの国で、前述のような特定の年齢で人々が引退する確率が高まり、その結果労働力率が低下する様子が示されています(Gruber and Wise 1999)。(2)その後の欧州諸国の政策しかし、1990年代に入ると欧米諸国では高齢化が進む一方、失業率が改善されないなかで高齢者の早期引退が進み、年金などの負担の増大が問題視されるようになり、これまでの高齢者の早期引退促進策が変更され、高齢者の就業促進が志向されるようになりました。なおこのような政策変更の背景には、年金負担の問題に加え、早期引退による労働力減少が経済成長を抑制することや、高齢者の保有する職業能力を企業が活用できなくなることによる不利益が懸念されたからといわれています(OECD 2006)。ともあれ、前述のドイツでは、早期受給を可能にしていた制度を変更し、65歳支給へ段階的に引き上げることが1990年代半ばに決定されました。また2012年には年金支給開始年齢そのものの、65歳から67歳への段階的な移行が始まりました。フランスの労働力率の低下から増加への反転の時期は、図表1で見たように、ドイツと比べると遅くなっていました。そのフランスでは、2010年の改革で60歳からの年金支給という制度は修正され、また満額の年金支給開始年齢を2022年までに65歳から67歳へ、段階的に引き上げることになりました。イギリスでも、高齢者の雇用促進に政策が転換され、前述した制度は廃止されました。そして、年金の支給開始年齢は2046年までに68歳に段階的に引き上げることになりました。アメリカでも、65歳であった年金支給開始年齢を2003年から2027年までの間に段階的に67歳に引き上げることになっています。このように、年金を中心にした欧米諸国における高齢者の早期引退促進策は撤廃されたといえます。(3)国際機関の動向次に、国際機関の動向はどのようなものかを紹介します。まず、ヨーロッパ諸国の政治・経済統合体であるEU(European Union)の動向です。EUは、その前身であるEC(European Communities)時代の1982年に、高齢者の引退についての理事会勧告を採択しています。ここでは、年金の繰上げ受給を可能にし、高齢者の早期引退をうながすことが述べられていました。しかし、前述のようなその後の各国の高齢者就業に対する方針変化と呼応するように、EUは2001年の雇用指針で、「活力ある高齢化(Active Ageing)」という目標

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