エルダー2020年11月号
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エルダー47特別寄稿1欧米における高齢者就業とブリッジ・ジョブを設定します。そこでは、税制および(失業など)各種給付制度が、高齢労働者の就労意欲を削ぐことがないようにすることが求められました。そして、翌2002年の雇用指針では、高齢者(55〜64歳)の就業率を2010年までに50%(当時38・8%)に引き上げるという目標が設定され、また年金の早期受給制度をはじめとした早期引退促進制度の廃止が求められるようになりました(厚生労働省 2007)。他方、別の国際機関であるOECD※2は2006年に「より長く生き、より長く働く(Live Longer, Work Longer)」という報告書(OECD 2006)を発表しました。そこでも、高齢者の引退へのインセンティブ(就業へのディスインセンティブ)となっている年金の早期受給などを撤廃し、高齢者の就業促進を進めることが提言されています。このように見ていくと、高齢層の引退促進から就業促進へという逆方向の政策を実現するために、先進諸国は強度の違いはあるものの、年金制度の変更を実施していて、国際機関はそれに対する支援や誘導をしてきたといえます。定年制を巡る政策とその影響4他方、高齢者就業に関連する定年制に関する政策を紹介しましょう。(1)ヨーロッパの動向EUは定年制に関しても提言しています。2000年に採択された「一般雇用機会均等指令」では、宗教、信条、障がいなどさまざまな要因と並んで、年齢による雇用や職業に関する差別の禁止を加盟各国に求めています。ただし、多くの例外が認められていて、定年制は法的適合性や合理性があれば存続可能と解釈されているようです(櫻庭 2014)。なお、ここでの定年は日本のように就業規則などに明記されたものとはかぎりません。満額の年金支給開始年齢で退職することが多くなっていますが、それが慣行となっている場合もあるし、労働協約で明記されている場合もあります。ともあれ、EUの政策は加盟国の政策の方向性を規定するなど影響をおよぼします。その関係で、いくつかの国では、定年制の変更や修正を実施してきています。例えば、イギリスです。イギリスではEUの政策を受けて、2011年に定年制を廃止しています。他方ドイツでは、年金支給開始年齢時に雇用関係を終了することを定めているのが一般的ですが、その支給開始年齢は前述したように現在移行中となっているので、変化の途上です。(2)アメリカの定年制撤廃このようにヨーロッパ諸国では定年制の撤廃や変更が行われてきていますが、そのはるか以前にそれを実施したのはアメリカです。アメリカでは1967年というきわめて早い時期に、「雇用における年齢差別禁止法(ADEA)」が制定されています。これは、40歳から65歳に関して、年齢による雇用における差別的な扱いを禁じたものです。アメリカでは、その数年前の1964年に成立した公民権法で、人種、宗教、性、出身国、皮ひ膚ふの色による差別を禁じているので、ADEAはそれに年齢という要因を加えたものと見ることもできます。その後この法律は、対象となる年齢の上限が、1978年に70歳に引き上げられ、1986年にはその上限年齢が撤廃されています。つまり定年制の廃止です。なお、この法律の雇用に対する影響の分析結果を探索した川口(2003)は、高齢者の雇用率を高めたことは確認できたが、そのことが企業にどのような成果をもたらしたかは不明であるとしています。(3)実効引退年齢の推移これらの一連の政策展開を経て、実際に高齢※2 OECD……経済協力開発機構(Organisation for Economic Co-operation and Development)

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