エルダー2020年11月号
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2020.1148者の引退行動はどう変化したのでしょうか。この点に関して、OECDは平均実効引退年齢(Average Effective Retirement Age)を推計しています。平均実効引退年齢とは40歳以上の就業者のうち調査期間に労働市場から引退した人の平均年齢です。その平均年齢の1980年からの推移を示したものが、図表2です。ここからも、政策の転換により1990年代半ばから2000年代半ばにかけて、高齢者の就業行動が変化したことが確認できます。ブリッジ・ジョブの展開5(1)ブリッジ・ジョブとはこのように高齢者の就業が徐々に進んできた先進諸国ですが、実際の高齢者の就業状況はどうなっているでしょうか。この点に関連して、日本ではあまり用いられていない、「ブリッジ・ジョブ」(Bridge JobやBridge Employment)という言葉が、欧米の文献にしばしば登場します。「ブリッジ・ジョブ」とは、フルタイムの「キャリア・ジョブ(当人にとって自らの職業生活で最も重要な仕事)」を経た後、労働市場から完全に引退するまでの間にたずさわる仕事のことです(Ruhm 1990)。そのようなブリッジ・ジョブに就くのは、退職した高齢者のうちどの程度の割合でしょうか。この点に関しては、キャリア・ジョブを辞めた高齢者の65%という結果や、30%あるいは25%という結果があります。しかし、これらの研究のほとんどは、調査対象を何年かにわたって追跡する「パネル・データ」を分析したものなので、分析の対象数は数千件と決して多くありません。その結果から全体の普及度を議論するのは、あまり適切ではないでしょう。むしろこれらの割合から、ブリッジ・ジョブが例外的に発生しているのではなく、一定の広がりが見られる現象であることがわかることが重要だと思います。では、ブリッジ・ジョブに就くのはどのような人でしょうか。少し以前の研究ですが、Ruhm(1990)は、1969年に58〜63歳であった職業経験のある約7000人を追跡した調査データを分析しています。その結果、キャリア・ジョブ退職後に多くの人がブリッジ・ジョブに就いていることや、引退はかなり柔軟で、引退状態に入った後、再就業する人も少なくないなど、高齢期の柔軟な就業の特徴を描き出しています。また、所得や年金という経済変数がブリッジ・ジョブ就業に影響をおよぼしていることも示しています。55.060.065.070.075.0(%)19801985199019952000200520102015(年)フランスドイツ日本イギリスアメリカ出典:OECD.Statのデータをもとに、筆者作成図表2  平均実効引退年齢の推移(男性)

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