エルダー2020年11月号
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エルダー49特別寄稿1欧米における高齢者就業とブリッジ・ジョブ他方、高齢者の就業が高まりだした時期のデータを分析したのが、Cahillほか (2011)です。彼らの分析では、調査期間の間に労働市場から「引退した人」は男性では56%に達していましたが、そのうち15%は調査期間内に再び働き始めていました。そこで、再就業する要因を分析しています。その要因のなかでは、確定拠出型の企業年金の人がそうなりやすいことが判明しています。年金受給金額が確定していない確定拠出型の場合は、年金収入が不安定になりそれが再就業をうながしていると、彼らは推測しています。また、Dingemansほか(2016)は、2001年時点で50歳以上であったオランダの就業者を追跡した調査データを分析しています。彼らの研究の特徴は、これまでの研究で用いられてきた人口学的・社会経済的要因(性、健康状態、金銭的要因、マクロ経済状況など)、社会学的要因(婚姻、家族関係など)に加えて、心理社会的要因(退職後の仕事に対する関与・愛着、労働市場の就業機会に対する認知など)も説明変数としている点です。(2)ブリッジ・ジョブ研究の方向性このようなブリッジ・ジョブの研究は進展してきていますが、今後はどのような方向に研究が展開するでしょうか。Zhanほか(2015)は、ブリッジ・ジョブには四つの論点があるとしています。その第一は、ブリッジ・ジョブの意思決定のメカニズムの解明です。上記のいくつかは、この論点の成果といえるでしょう。第二は、キャリア開発手段としてのブリッジ・ジョブという論点です。具体的には、自らが自営業主として活躍するなどのため、あるいは次世代人材の育成へ貢献するために、必要な知識や経験を獲得する機会としてブリッジ・ジョブをとらえるということです。第三は、引退への調整過程としてのブリッジ・ジョブです。意欲や態度がキャリア・ジョブのときと比べるとどのように変化してきているのか、それと労働市場からの引退はどのような関係にあるのかなどの論点です。そして第四は、人的資源管理という観点からのブリッジ・ジョブです。これは高齢化が進展するなかでの人材確保のために、高齢層に対する処遇をどうするかという論点です。ブリッジ・ジョブの分析には、幅広い観点からの接近が可能であることがわかります。日本では、65歳以降の高齢層の就業促進が議論になってきています。就業と引退の間を柔軟に揺れ動く高齢者の就業動向を分析するブリッジ・ジョブの考え方や分析枠組みは、これからの日本の高齢者就業を考える際に有力なヒントになるのではないでしょうか。(付記:本稿は、永野(2019)を一般向けに書き直したものです。参考文献等を含め、詳しくは永野(2019)を参照してください)〔参考資料〕● Cahill, K. E., Giandrea, M. D. and Joseph F. Quinn, J. F. (2011), “Reentering the Labor Force after Retirement”, Monthly Labor Review, June● Dingemans, E., Henkens, K. and Solinge, H.(2016) “Access to Bridge Employment: Who Finds and Who Does Not Find Work After Retirement?” Gerontologist, Vol.56, No.4● Gruber, G. and Wise, D. A. ed. (1999) Social Security and Retirement around the World, University of Chicago Press● 川口大司(2003)「年齢差別禁止法が米国労働市場に与えた影響」『日本労働研究雑誌』521号、12月● 厚生労働省編(2007)『2005~2006年海外情勢報告:諸外国における高齢者雇用対策』● 永野 仁(2019)「欧米における高齢者就業政策」『政経論叢(明治大学)』87巻、第5・6号● OECD(2006)Ageing and Employment Policies: Live Longer, Work Longer, OECD Publishing (濱口桂一郎訳『世界の高齢化と雇用政策』明石書店、2006年)● Quinn, J. F.(1999)Retirement Patterns and Bridge Jobs in the 1990s, EBRI Issue Brief #206, Feb.● Ruhm, C. J.(1990)“Bridge Jobs and Partial Retirement”, Journal of Labor Economics, Vol.8, No.4, Oct.● 櫻庭涼子(2014)「年齢差別禁止と定年制」『日本労働研究雑誌』643号、特別号● 清家篤・府川哲夫編著(2005)『先進5か国の年金改革と日本』丸善プラネット● Zhan, Y. and Wang, M.(2015) “Bridge Employment: Conceptualization and New Direction for Future Research”, Bal, P. M., Kooij, D. T. and Rousseau, D. M. Aging Workers and Employee-Employer Relationship, Chap.12, Springer

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