エルダー2020年11月号
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エルダー51特別寄稿2高齢社員に対する新型コロナ対策告された〞という報道を見たら、千人から2千人が感染しているかもしれない、とイメージするとよいと思います。医学的には感染しても症状が出ない場合を「不ふ顕けん性せい感染」と呼び、そうした状態からほかの人にうつしてしまう人を「無む症しょう候こう性せいキャリア」といいます。さらに症状の有無にかかわらず新型コロナに感染した人は、ウイルスを排出することもわかってきました。一方、全国各地でマスクの着用や手洗いが励行され、互いの距離を保つソーシャルディスタンスが保たれた結果、いまのところ季節性のインフルエンザなどの発生は低く抑えられそうです。季節性のインフルエンザでは、発病するのと同時かそれ以降にほかの人にうつすと考えられています。日常的に罹かかる風邪でも同じような理解をしている人が多いと思います。しかし、新型コロナでは、これとは異なり熱や咳などをともなう発病の2日前からウイルスを排出し、特に前日の感染力が最も強いことも明らかにされてきました※2。もちろんPCR検査などで新型コロナと診断され、肺炎をともなっている場合にも患者はウイルスを排出し続けます。つまり、読者の方もご自分が感染していることに気がついていなくとも、ほかの人にうつしてしまうかもしれないのです。あるいは元気そうに見える人からも何時、新型コロナをうつされるかもしれません。疑心暗鬼になる必要はありませんが、「症状のない人からも新型コロナはうつる」ということを職場内で共有しておくことが大切です。②新型コロナの症状は重いことが多いこれまで、新型コロナ対策に関するウェブセミナーや執筆、出版※3を行い、新聞などの取材や職場の対策などに関するご相談も受けてきました。そのなかで感染して発病し、PCR検査を経て新型コロナと診断され、自宅やホテルでの療養や入院を経験した方々のお話をうかがう機会がありました。巷では「コロナ風邪」と呼んで軽症であると強調し、全国で毎日、数百人以上の感染者数の報告があっても経済活動優先という向きが少なくありません。けれども、新型コロナは〝風邪どころか、季節性のインフルエンザよりかなり症状が重い〞印象があります。持病もなく、健康体を誇っていた人でも発熱などといった症状が出て、肺炎の進行とともに血液中の酸素濃度が下がって酸素吸入を要し、さらには重症化して人工呼吸器を装着しなければ生命を維持できない事例も少なくありません。回復しても、息苦しさや頭痛、全身の痛み、味やにおいがわからないなどの後遺症が残る人がかなりいます。60歳ないし65歳以上の高齢者では重症化しやすく、ベッド上で安静を保つ期間が長期化します。そうすると全身の筋肉が衰え、体重も減ってしまい、日常的な動作すらむずかしくなるケースも多いのです。日常生活や職業生活に復帰するために、リハビリテーションでたいへんな思いをしている人もいます。〝「ステイホーム」のかけ声で自粛することに飽きた〞とか、〝我が慢まんしてきたから旅行ぐらいしてもよいだろう〞と口にする前に、家族などの大切な人のために、なるべく感染しないように自衛し続けることが重要であると思います。③新型コロナの検査はなかなかむずかしい新型コロナと診断するには、有名になったPCR検査が必須です。ところが、新型コロナ感染症の患者さんを確実に判定する能力は7割程度しかありません。見方を変えると、3割の人は正しく判定できないのです。これを専門的には「感かん度ど」といいますが、その限界以外でも、検査のタイミングが重要になってきます。例えば、無症状や軽症の経過では7日から10日でほかの人への感染力が小さくなると考えられています※4。疑わしくても、タイミングが遅すぎると正しく診断できないこともあります。3月以降に感染者数が急増し緊急事態宣言が発出されたころは、PCR検査を管理する保健所な※2  Temporal dynamics in viral shedding and transmissibility of COVID-19 Nature>nature medicine>brief communications https://www.nature.com/articles/s41591-020-0869-5※3 今月号の「Books」(56頁)で亀田先生の『図解 新型コロナウイルス メンタルヘルス対策』をご紹介しています※4 厚生労働省『新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療の手引き 第3版(9月4日)』 1. 病原体・疫学 2. 伝播様式 【潜伏期・感染可能期間】

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