エルダー2020年11月号
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エルダー55FOOD日本史にみる長寿食食文化史研究家● 永山久夫風邪が流行する前に柿を柿は木になる“サプリメント”秋になって柿が実る季節になると、病人は元気になって、山盛りごはんを平らげて、次の日にはもう畑に出かけていく。昔は、そのようにいわれました。次のようなことわざもあります。「柿が赤くなると、医者は青くなる」昔の人たちは、なかなかうまいことをいいます。経験の知恵で、山が色づくころになって、柿を食べる時期になると、気候もよく病人が少なくなってしまうから、村の病院は困ってしまうようなことがあったのかもしれません。寒くなると、万病のもとといわれる風邪やインフルエンザが流行します。「風邪の予防にはビタミンC」は、いまや常識です。そのビタミンCが甘柿にはたっぷり。100g中に70mgも含まれていて、大きめの柿を1個食べると、1日の所要量が十分とれます。のどの炎症を防ぐカロテンも多く、ビタミンCと同じように免疫力を高めるポリフェノールのタンニンも多い。つまり、柿は免疫力を強化する、木になる“サプリメント”のような食物なのです。食物繊維もたっぷり昔は多くの家の庭先に、甘柿と渋柿が植えられていたものです。冬に流行する風邪やインフルエンザなどを予防するために甘柿から食べはじめ、あらかたなくなるころに、山からモズがやってきます。そして、柿の木のこずえでけたたましく鳴き声を上げ、村人に冬の近いことを告げます。そして、霜の季節になると、渋柿も赤くやわらかくなり、甘い熟し柿となります。渋柿のほとんどは熟す前に皮をむき、日あたりのよい軒下などにつるして、干し柿にしたものです。柿の皮は、平ひらざるなどに広げて天日干しにし、カラカラになるまで乾燥させてスナック風に食べてもおいしく、餅に搗つきこんでも甘味が強く人気がありました。干し柿にすると、生柿にくらべ食物繊維が10倍近く増えます。善玉菌を増やして、腸内の環境をよくするのが食物繊維。免疫細胞の70%は腸内に集積されており、したがって腸内環境を整えることは、インフルエンザなどに対する免疫力アップの近道といってよいでしょう。325

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