エルダー2020年12月号
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2020.128例えば、ITやインターネットの活用に対して、シニアは苦手なイメージがありますが、いまのシニアは若者ほどではないにしろ難なく使いこなします。頭が固い・頑固というのもそれほどではなく、健康寿命も以前より若返って元気な方が多くいます。いまのシニアを10年前のシニアと同じように考えてはいけません。いまは50代と60代の差はかなり小さくなりつつあります。50代と60代の評価の差は縮まっているそれはつまり、外部労働市場における50代と60代の評価の差も縮まったということです。もちろんいまでも年齢を重ねるごとに折り合う給与額は低くなる傾向にありますが、企業や職種によっては60代も50代と遜色なく、むしろスキルや成果に応じて高い給与を実現できるケースも増えています。こうした50代と60代の評価の差は、少子高齢化の進行や、労働力人口の減少と年齢構成の変化を受けて、年々縮まってきています。特に、高い技術と豊富な経験を持ったシニア人材が高い評価を得ていますが、「働きたい」という意思があり身近な労働力であることそのものが価値だと考える企業も増え、積極的なシニア人材活用を始めています。シニア人材のみの、ほかの世代にはない価値としては、「教育のにない手」への期待です。高度な技術の伝承はもちろん、マニュアル化できない文化的なものの伝承を期待されることもあります。個々の事情にもよりますが、子育てなどが終わり、若い世代よりもむしろ自由が利く世代としてシニア世代に価値を見出す企業もあります。企業もシニアも「変化」を直視しなければならないところが、こうしたシニア人材の変化に、企業もシニア自身も十分に理解し、対応できているとはいえません。多くの企業の経営者や人事部が採用したい人材は、現在も変わらず将来性のある新卒や有能な若手が中心で、60代にかぎらず50代についても「働かないおじさん問題」※1といったように切り捨てたい思惑があり、事実、大手企業のリストラはコロナ禍前から活発化しています。一方のシニア人材も、ともすれば「シニアでも転職・再就職が可能」という事実にも疑いを持ち、どうせ無理と諦める方や、「悠々自適な老後」という十数年前のシニア観を捨てきれない方、経験・スキルの整理がされぬまま、見合わない条件を求める方などさまざまです。「変化についていけない」といういい方は、企業にもシニアにもたいへん失礼なのですが、会社やシニア社員自身の状態や置かれた環境をいま一度、しっかりと見つめ直すことが必要なのかもしれません。高年齢者雇用安定法(以下、「高齢法」)においては65歳までの雇用継続の義務、改正高齢法では2021年4月から70歳までの就業機会確保の努力義務を企業に課しており、若者が確実に減っているなかで若手中心の採用の継続に無理がないのか、企業は採用戦略を見直すタイミングに来ているといえるでしょう。シニアもまた、一回り上の世代の老後観を捨て、定年が伸びて働き続ける人生設計を行う必要があります。むしろ、上の世代のシニアが享受してきた、「貯蓄も年金もあり、定年から健康寿命の平均まで10年近くも余裕がある」ような「豊かでゆとりのある老後」が特殊だったと考えるべきなのではないでしょうか。シニアの活用に成功している企業、そして、活躍し続けているシニアに共通しているのは、こうしたシニアの雇用をめぐる変化に対応できていることです。※1  働かないおじさん問題…… 社内の地位や給料に見合った働きをしていない「おじさん」社員がいることで、生産性の低下や、若手社員のモチベーション低下などが懸念されること

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