エルダー2020年12月号
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特集シニア採用で会社にイノベーションをエルダー13ベーションととらえるなら、現業職のシニアがイノベーションにかかわることもできそうです。シニア人材のミスマッチとその防止についてミスマッチというのは、需要もあり供給もあるけれども、それがマッチしない状況です。これを解消するには、まず双方が何を求めているのかを把握する必要があります。企業がなぜシニア人材を求めるかというと、先ほどお伝えしたように、①経験や専門性、人材ネットワークなどを活用したいケースと、②若者の採用がむずかしい現業部門などでがんばってもらいたいケースがあります。このうち特にミスマッチが大きいのは前者です。「大手で管理職をやってきました」という人の場合、その大手企業でのルールややり方には精通していても、中小企業に来てデジタル機器に対応できない人は、企業のニーズに合いません。けれども、現実にはそういう人が少なくないのです。一方、個人の側はどうかというと、ご存知の通り、いまは元気なシニアが増えています。老後資金の不安もあり、長く働きたい人が増えています。しかし、先進的なデジタルにも対応し、イノベーションをになってバリバリやりたいか、できるかというと、そこまでではなく、ほどほどに働きたいという人もいるでしょう。しかし、企業はそんな人は求めておらず、「それをやってもらうなら若い人がいいよ」となります。このように、シニア人材の採用でミスマッチが起きるのは、求める質の問題なのです。一つはスキルの質。特にデジタルスキルやイノベーションスキルの面で、企業の求めるものとシニアが保有しているものが合わないケースです。二つ目はマインドの質。イノベーションを起こすには、かなりハードに考えたり折衝したりしなければなりませんが、そこまでハードにやろうと考えていないシニアもいます。三つ目はフィジカルの質。シニアになると体力的にも、若い人と同じようにハードに働くのはむずかしくなります。これら三つの質の食い違いが随所に見られます。もちろん、マッチングが成功した事例もあります。私がまず思い浮かぶのは、ライフネット生命保険株式会社です。出口治はる明あきさんという業界のプロ中のプロで、しっかりしたマインドを持たれたシニア経営者と、岩瀬大輔さんという若くアグレッシブな経営者が出会い、保険業界にインターネット生命保険というイノベーションを起こしました。シニアと若者のパワーのよい面がかみ合った、まさにイノベーションの好事例です。では、マッチングの可能性を高めるには、どうすればよいでしょうか。マッチングというのは、どちらか片方だけでは成立しません。企業と個人の双方と、それを取り巻く社会の三者それぞれの理解促進や行動改善が重要です。まず、企業については、シニアの考えや現状を知り、その方々をどう活かすべきか戦略的に考える必要があります。日本企業は、新卒一括採用の伝統もあり、基本的には若者重視になっています。そこをどう変えていくか、マインドセットや事業構造などを再検討する必要があるでしょう。ちなみに、現業部門などでシニアを活用するうえでは、すでにさまざまな対応が採られています。近年は人手不足が続いていたこともあり、職場改善や働き方改革、周囲のマインド変革などが積極的に行われてきました。工場にパワースーツを投入してシニアでも重いものを持てるようにしたり、時間の自由度を高め、朝早く出勤して夕方は早めに終わる勤務制度を採り入れるなど、多くの事例があります。しかし、管理系または専門系の能力、経験、ネットワークを有するイノベーティブな人材を採用するための改善事例はあまりありません。一方、個人側も、もっと企業のニーズをよく

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