エルダー2020年12月号
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2020.1214知ったうえで、自分の能力をどう活かすかを考える必要があります。自分のキャリアデザインは大事ですが、市場性も考えないと、思うようなキャリアを築くことはできません。若手を採用する場合であれば、企業も、多少ニーズに合わなくても、「育てればいい」と採用します。しかし、シニアにそこまで手をかけるかというと、伸びしろの問題もありますし、働ける期間・能力の柔軟性の問題もあるので、そうはいきません。現有能力でのマッチングが必要です。そのためには、自分のキャリアを広い視野で早くから考えることが大事です。50歳から考えたのでは遅く、20代でも、30代、40代でもキャリアデザインをするべきです。そうすることで、環境の変化や企業の変化に合わせて自分の能力開発やマインドセットを見直し、求められる市場性のある人材になっていくことができます。社会の仕組みとしては、シニアが長く元気に働ける働き方や環境の整備、周囲の理解促進が必要です。リカレント教育や、企業側の経営改善をうながす仕組み、マッチングをうながす制度も整備していくことが求められます。シニアのイノベーション人材のマッチング事例私が代表を務める株式会社クオリティ・オブ・ライフでは、専門性が高く経験豊かなシニア人材と中小企業とのマッチングを行う「生涯プロフェッショナル事業」を展開しています。当社がかかわったシニア人材のマッチングの好事例をご紹介したいと思います。高知県のある中小企業では地元の食材を使ったよい商品をつくっており、それを全国に広めたいと、社長が東京に営業に来て流通関係を回ったり見本市に出店したりとがんばってきましたが、伸び悩んでいました。その会社に紹介したのが、大手食品メーカーでヒット商品の開発やマーケティング・販売戦略をしていた60代後半のシニア人材です。いまではその人が持つネットワークを活かして流通会社を紹介したり、マーケティング・販売戦略を立てて社長に提案するなど、社長が東京に来なくてもはるかに高い効果を上げています。また、80歳のシニア人材を中小企業に紹介したケースでは、その人が社長に対して経営のアドバイスをするだけでなく、社長自身の育成にもかかわり、経営力を高めるサポートをしています。シニア人材をイノベーションに活かすうえでは、「採用」という形だけでなく、このように外部からアドバイザー的にかかわってもらうやり方も有効です。イノベーションのメカニズムには、自分がプレーヤーとなり、組織のなかで周りを引っ張るやり方もありますが、外部からアドバイスをして社長や社員を動かし、その人たちがイノベーションを起こすのを支援するやり方もあります。こうした「間接的イノベーション」も検討に値するのではないでしょうか。おわりにイノベーションが大事だということは論を俟またないでしょう。経営者も社員も、もっとイノベーションを意識する必要があります。そのなかで、シニアの持っている経験やネットワーク、「世のため人のため」というようなマインドを含めて、シニアの力を活かしていくことができるはずです。企業のみなさんには、若者の嫌がる仕事にシニアを活用するだけでなく、経営などの領域で直接的・間接的に力を発揮してもらえるようなシニアの活かし方を考えていっていただくことを期待しています。はら・まさのり 株式会社クオリティ・オブ・ライフ代表取締役、高知大学経営協議会委員・客員教授、成城大学非常勤講師。早稲田大学法学部を卒業後、株式会社リクルートを経て起業。採用・定着・育成・人事制度構築などで多数の企業を支援している。『定年後の仕事は40代で決めなさい』(徳間書店)、『人が集まる、定着する! 会社の採用』(すばる舎)など著書多数。

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