エルダー2020年12月号
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2020.1216アから提案された企画が、飲食店向けの最先端の衛生管理手法である国際標準の「HハサップACCP」のスマートフォンアプリの開発と販売であった。2018年6月に公布された改正食品衛生法により、2021年6月1日から原則としてすべての食品事業者にHACCPに沿った衛生管理が求められる。その需要に加えて当初はオリンピックに合わせて海外旅行客が増えることを見込んで、政府も日本の食の安全と安心を守るためにHACCP導入に力を入れていた。とはいっても食品・食材の細かい検査や記録管理などの作業は、食品事業者にとってハードルが高い。しかし、スマートフォンの画像記録などを駆使したシステムアプリを開発すればその作業も容易になるという提案に、同社の田村圭一社長も共感し、開発がスタートした。その結果、見事に開発に成功。今年11月中旬から「おたすけHACCP」と名づけたアプリの販売を開始し、会社にとっても有望な事業として期待されている。その立役者がHACCP事業プロジェクトのプロジェクトリーダーの林賢まさるさん(67歳)と、同プロジェクト商品開発リーダー・アーキテクトの加納俊之さん(66歳)の2人だ。2人とも東京都が65歳以上のシニアの「学び直しの場」として開設した「東京セカンドキャリア塾」の第一期生だ。2人のスペシャリストが過去の経験を活かし活躍林さんは大手オフィス家具メーカーでインテリアデザインやオフィスデザイン業務を担当。45歳のときに自ら顧客向けのワークスタイルデザインやICTを含む総合提案部署をつくり、コンサルティング活動に従事し、定年で退職。定年後は旺盛な好奇心をベースにファーストキャリアとはまったく違う業界の産業給食会社に取締役として再就職。65歳で顧問に就任するが、時間的余裕もあって東京セカンドキャリア塾の門を叩いた。林さんはコンピュータシステム入社後、HACCPアプリを提案した。その原点は給食会社での品質管理の経験にあった。「定年まで勤めていた会社にも再雇用制度はあったのですが、いままでとはまったく違う仕事をしてみたいという好奇心があり、給食会社に再就職しました。すると、いきなり品質管理責任者を任され、ISO(国際標準化機構)の認証・監査など品質管理業務を担当させてもらいました。ISOの認証取得など品質管理や衛生管理の業務で現場を回るうちに探究心が湧き、65歳で顧問になってからも、飲食店の衛生管理の外部監査を行う会社で、スポットアドバイザーとして働き、1年間にわたって16社・全国200カ所を回りました」同社を選んだのは「シニアでも一緒に夢が見られる会社です。自分で企画したものでどんどん儲けてみるのも楽しいんじゃないですか」と田村社長にいわれたのがきっかけだった。その会話のなかでセカンドキャリアの5年間で担当していたHACCPが現場に浸透していない状況を実感し、システムアプリの開発を提案した。もう1人の加納さんは大手電機メーカーで産業オートメーションを制御するコンピュータシステムの商品開発に長年従事してきたシステムエンジニア。管理職を経て定年後再雇用で働き、65歳で退職した。「再雇用が満了になり、たまたま東京都のセカンドキャリア塾の募集が目にとまったのです。特に目的もなく、時間があるからという感じで入ったのですが、いろんな仲間と話をしているうちにもう少し働いてみるのも悪くないかなと思い始めました。できればこれまでの経験を多少でも活かせるようなところがあれば勤めてみたいと思い、過去の経験を一番活かせる可能性が高いこの会社を選びました」そして同社のインターン中に林さんと出会い、HACCPのシステム開発を手がけることになった。

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