エルダー2020年12月号
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2020.1218「2021年6月からすべての飲食店でHACCPの導入が求められますが、いまはコロナで忙しい保健所が、いずれ指導・監査で回ることになります。実は前職時代に衛生管理のレベルをHACCPに引き上げたいと画策していたのですが、現場の抵抗が強く実現しませんでした。これは私がいた会社だけではなく、ほかの会社も同じでほとんど浸透していません。そこで厚生労働省は大規模な大量生産型の食品事業者向けのA基準と、規模の小さい飲食店向けのB基準という二つの規格に分けて実施されることになりました。B基準も一つひとつチェックシートに記入し、記録を保管するなど手間はかかりますが、A基準に比べると比較的ハードルが低い。これならスマートフォンを使ったソフトウェアを開発できれば、記録やデータがすべて〝見える化〞され、飲食店・給食会社も安心してHACCPを導入できると考えたのです」(林さん)開発したアプリはサイトからダウンロードすれば利用できるなど手続きも簡単だ。事業者は月額利用料を同社に支払う仕組み。すでに事業計画も策定し、売上げ目標も設定している。同社は法人営業部隊として新たに3人の社員を投入している。「社長の『営業もできるSE(システム・エンジニア)を育てたい』という意向もあり、3人は私のプロジェクトに加わってもらっています。私は営業のプロではありませんが、過去に営業を担当したことがあるので、全体の仕事の流れなどは教えられると思います。この事業を成功させるには初期営業も重要です。会議で話をしているとみんな意欲があり、十分にいけるのではないかなと思っています。私のような年を重ねた人間は、事業から得られる自分の利益よりも世の中に求められるモノやコトを提供し、そのお手伝いをできることで十分に働きがいを感じています。それがいずれ生きがいのレベルになってくるのかなと思います」(林さん)加納さんもいまの仕事に十分に手応えを感じている。「何より自分がこれまでやってきた経験が活きていることに満足しています。仕事のうえでは若い人たちはプログラミングなどをつくることは得意ですが、仕様書など文章を書くのはやや弱い。私はどちらかといえば文章を書くほうを中心にやり、若い人を指導するというより、できるだけ多く書いて、それを見て何かを得てほしいと思っています。そういう形で互いに補完し合っていますが、私にとっては自分が役立っているという気持ちが持てますし、やりがいも大きいですね」柔軟な勤務体制を整えシニアが無理なく働ける環境を整備林さん、加納さんの2人にとっての同社の魅力は、働き方の柔軟さにもあるという。ともに1日6時間、週3日勤務。加納さんは「就業時間を割と自由に選べることも魅力です。65歳を過ぎるとそんなに無理をしたくないという気持ちもありますし、1日6時間週3日というのはありがたい」と語る。実は2人は勤務日以外の時間は独自の活動もしている。林さんは自らNPO団体を主催し、ソーシャルアートビュー(目の不自由な方と晴眼者がともに見る対話型絵画鑑賞)活動を行っている。また、加納さんは老人ホームでのボランティア活動を行っている。林さんの学生時代の同期や会社の同期の友人たちは65歳を過ぎると働かなくなる人が増えているという。しかし、そうした人たちのなかには当然、蓄積された知恵と経験を備えた人も多い。林さんと加納さんは同社と出会って、持てる能力を十二分に発揮することで、あらためて働きがいを獲得し、結果として企業のイノベーションの起爆剤になることを具体的に証明して見せたといえるだろう。

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