エルダー2020年12月号
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2020.1222り、現地で担当者にヒアリングを行うといった業務は見送られ、すべての予定が白紙になったのだ。そのようなコロナ禍の事情も背景にあり、4月以降の業務遂行について本社の人事担当者に相談したところ、アイネットによる常勤監査役募集の件を聞き、新しい職場として急浮上。その後はスムーズに進み、2020年5月末に商社を退社した。なお、菅野さんが勤めていた商社の人事部にはシニア人材のためのカウンセリング課が設けられており、シニア人材とグループ内外の求人ニーズとのマッチングを目的としたシステムを活用して、シニア層の活躍を推進している。菅野さんは2020年8月末に行われた株主総会において、アイネットとアンドモアの常勤監査役に就任した。ただ、正式な監査役就任前の6月から、「入社前に、社外の人間の視点から社内の現況をつぶさに俯ふ瞰かんしておきたい」という理由で、非常勤顧問として受け入れてもらい、アイドリング期間とされたそうだ。自ら申し出て設けた準備期間だが、「これといった仕事は何もせず、勉強の時間をいただいただけ」と謙遜する。監査とは、ただ経営活動を点検して駄目な点を指摘するだけではなく、経営状況や現場の雰囲気などを俯瞰して、組織をよりよくするための提案をすることも重要な役割だが、「残念ながら監査を受ける側の方には、粗探しをしているだけの仕事といったような後ろ向きのイメージを持たれてしまうことは否めません。ですが、これから成長していく会社においては、監査の指摘が次のステップへとつながるアドバイスになることが多く、プラス志向の仕事ができます」と笑顔で話す。非上場の中小規模の会社であれば問題がなかった記帳の仕方も、上場にあたり変更が必要になることも多い。株主を中心とした外部利害関係者に会社情報を適時開示する義務が生じるからだ。「長年問題がなかった記帳の仕方がなぜダメで、なぜ経理業務の負担が増えるのかを、ただ押しつけるのではなく、ていねいにかみ砕いて説明する必要があります」と、社員教育も必要で、取り組むべき仕事は多いようだ。管理体制のための社内規程の策定については、「器にあった規程、つまり会社の規模にあった規程が大事だと考えています。いまは100人規模の会社ですが、今後も順調に成長していくと見込まれ、300人規模になったとき、100人規模に合わせた規程では無理が出てくるので変更が必要になります。そのときにスムーズな対応ができるよう、柔軟性のある規程をつくることを目ざしています」と話す。監査役でも「新人の心構え」をもって、つちかった経験と人間性で会社に貢献菅野さんに60歳以降もビジネスの現場で活躍するための心構えを聞くと、「経理・総務の部署でみなさんと、席を並べて業務にあたっています。会社に加わったばかりの新人として、社員のみなさんと同じ目線で会社のやり方を身につけることが大事だと思っています」という。また、健康維持・体力づくりのため、通勤時には会社の2駅手前で降りて歩いている。浦元室長は、シニア人材を採用するメリットについて、「若手人材はこれから知識と経験を積んでもらうため育成に年月がかかります。対して、シニア人材は知識と経験を十分に持っていますから、即戦力としての活躍が期待できます。当社のような上場を目ざす企業にとって、管理体制の構築を進めるにあたり、外部からのシニア人材の経験と人間性は必要不可欠です。それは当社だけでなく同様の企業にもあてはまるのではないでしょうか」と締めくくった。上場の審査基準は厳格に設けられており、今後はその基準をクリアするために管理部門を強化し、改善プロセスで内部統制やコーポレートガバナンスの整備など、不正や不祥事を防ぐ仕組みを整え、健全な経営体制を目ざしていく。

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