エルダー2020年12月号
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2020.1226お客さまはこういうことを考えているのだろう」、「周りの人はこう動いているはず」と想像でき、「こうするといいですよ」と的確なアドバイスができる。榎さんが大事にしているのは、自己研鑽の意識を高めること。「エンジニアは技術力がないと生きていけません。いくつになっても学び続けることが必要です。そのことを若いうちに教えたい」と意欲を燃やす。そのために、「次はこういうことを目ざしてはどうか」、「別の現場に行ったときのことを考えると、こういう点が足りないのでは」と、長期的な視点でキャリアを考えさせるようにしている。若手社員とコミュニケーションを取る際には、上から目線にならないように心がけている。「母親が小さな子に話しかけるときには、しゃがむでしょう? それと同じです。『若い子はこういうことを考えているのだろう』と目線を下げ、本人の気持ちに寄り添いながら成長をうながしていく必要があります。そういう意味では、おせっかいなんです」と榎さんは笑う。澤田社長も、「長く続けていただいているコーチは、みなさん、おせっかいです(笑)。いままで生きてきた人生の集大成ではないですが、『若者のために一肌脱いでやるか』、『本気で若者を成長させてやろう』という感覚でないととてもできません」という。個々の社員も会社も成長しシニアにとってのやりがいも大きい榎さんをはじめとするコーチの励ましや叱咤激励によって、成長した社員は多い。28歳で同社に入社したAさんは、優しく素直な人柄だが、この仕事は未経験。最初の現場でお客さまからダメ出しされ、落ち込んでいた。そんなAさんに対して、榎さんは、「初心者だからわからないのはあたり前。その代わり、最初に会社に入ったときの気持ちで勉強したほうがよい」と話すとともに、現場でどんな作業をしているか週報を作成・提出してもらい、「この作業をするときはここに注意しよう」とアドバイスを続けた。すると、Aさんもだんだんコツがわかってきて、次の現場では顧客評価がぐんと上がった。前向きになったAさんに、「プログラマーで終わらず、設計ができる人になりなさい。そのためにこういう勉強をしたらよいですよ」とすすめ、さらなる成長をうながしている。Bさんは52歳。前の会社で「開発ではなく運用を担当してください」といわれたが、「web系のソフトウェア開発をしたい」と、同社に転職してきた。業界経験は長いものの、古いプログラム言語しか扱ったことがないBさんに、榎さんは「50代になっても未経験は未経験。乗り越えるには技術力を身につけるしかないですよ」と叱咤激励した。すると、自己研鑽を重ね顧客評価も上がり、いつしか自信満々の顔に。「さらに新しい技術を学び、現場責任者としてメンバーの教育もしてはどうか」とうながすと、自ら勉強会を主催するようになった。「いくつになっても、やる気があれば変われます。こういう事例があると、こちらもやる気になりますね。エンジニアががんばってくれないと日本のIT業界がつぶれます。少しは社会のお役に立てているかなと思います」と、榎さんはこの仕事のやりがいを語る。同社には50〜60代のエンジニアも多く、今年は65歳の定年を迎えた人もいる。そういう人たちが最後まで現役で働ける会社を目ざして取り組んできたことが、同社の成長につながっている。澤田社長は、「少子高齢化の時代、日本の活力を高めていくには、女性、海外人材、シニアを活かすことが不可欠です。発想を柔らかくし、よい取組みをしている会社を参考にしながら、『私だったらどうするか』と謙虚に考え、いまの体制を築いてきました」と語る。シニアの経験・知見を活かし、現役世代を支える同社の施策は、多くの企業の参考になるだろう。

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