エルダー2020年12月号
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2020.1238仕事変化部分」になります。■正社員の賃金が年功賃金の場合次に正社員の賃金が②年功賃金の場合を考えてみます。高齢社員の賃金制度を設計する基本は成果主義型賃金と同じですが、図表に示したように、「仕事変化部分」、「制約化部分」に加えて「後払い部分」を定年前賃金から控除することが必要になります。年功賃金の場合には、定年時の賃金が成果を上まわるので、高齢社員の賃金を決める際には、この払い過ぎの部分を調整する必要があることを説明しました。「後払い部分」はこの払い過ぎの部分にあたり、この調整をしないと、いかに「仕事原則」と「制約配慮原則」を適用しても、高齢社員の賃金は「後払い部分」だけ払い過ぎの状態になります。したがって図表に示してあるように、高齢社員の賃金は、〔現職継続の場合〕では「定年前賃金-後払い部分-制約化部分」、〔仕事が変わる場合〕では「定年前賃金-後払い部分-制約化部分-仕事変化部分」になります。このようにして骨格ができても、「後払い部分」、「制約化部分」、「仕事変化部分」をいくらにするかが決まらないと賃金制度を設計したことになりません。「制約化部分」は連載の第5回で説明したリスク・プレミアム手当にあたるので、その市場相場を参考にしつつ自社の事情を考えて決めることができます。「仕事変化部分」は仕事の重要度の低下にともなう調整部分なので、定年前後の仕事の職務評価の結果、あるいは同じ重要度の仕事に就く正社員の賃金を参考にして決めることができます。なおリスク・プレミアム手当の市場相場、職務評価の詳細については第5回をあらためて参照してください。それらに比べて、「後払い部分」をいくらにするかを決めることはたいへん困難です。すでに説明したように、理論的に考えると、年功賃金の場合には、定年時の賃金が払い過ぎの状態にあるので、「後払い部分」の調整を行うことは不可欠です。しかし、それがいくらかであるかを理論的に確定することはできませんし、「制約化部分」のように市場相場を参考にすることも、「仕事変化部分」のように何らかの評価の結果に基づいて決めることもできません。そこで会社がとるべき対応は、労働組合あるいは社員と協議し、会社の実情をふまえて決めるという手順をふむことです。残された二つの課題3■高齢社員の納得性を得ることこのようにして賃金制度を合理的に設計しても、残された大きな課題が二つあります。その一つは、賃金が定年前に比べて低くなることを高齢社員に納得してもらうことがむずかしく、そのことが労働意欲に影響をおよぼすことです。高齢社員を活用するうえでの企業の課題については、これまでくり返し調べられてきました。どの調査でも、健康問題などとともに労働意欲の低下が主要な課題としてあがっていますが、その背景には、賃金低下に納得が得られないことがあるのです。企業が高齢社員の戦力化を進めるには、この課題に何らかの対応策をとる必要があります。最も大切なことは、賃金をどのように決めているのか、賃金の低下の背景にはどんな理由があるのかを高齢社員にていねいに説明することです。そのためにも、「賃金決定の基礎理論」を理解し、それを応用することで高齢社員の賃金制度を設計するという連載で重視してきたアプローチが重要なのです。しかし、高齢社員はこうした説明だけでは、十分に納得しないかもしれません。そこで高齢社員にも変わってもらう必要があります。高齢社員は定年を契機に役割が変わり、新しいキャリア段階に入ったことを理解し受け入れること、新しい役割に合わせて働く意識と行動を変

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