エルダー2020年12月号
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エルダー39えることが求められます。これは高齢社員が職場の戦力として活躍するために必要なことです。このような高齢社員の変わる努力を支援することは企業の重要な役割であり、それは高齢社員の賃金に対する納得性を高めることにつながります。■高齢社員の賃金と総額人件費との関係もう一つの課題は総額人件費との関係です。高齢社員の賃金のあり方が議論される際に必ずといっていいほど、高齢社員を雇用すると総額人件費が増えるということが問題になります。さらに、それを解決するには、定年前の賃金を減額し、そこで浮いた原資を高齢社員にあてること、そのために現役正社員の賃金制度を変えることが必要であるということが提案されます。一見するともっともらしい指摘であり提案であるようにみえますが、その合理性や有効性についてはあらためて考える必要があります。連載の第2回で、これまで多くの企業は「成果を期待しない」福祉的雇用型の活用戦略、つまり高齢社員を業務ニーズに合わせて雇用するのでなく、法律に対応するために雇用するとの対応をとってきたと説明しました。この活用戦略をとる企業にとっては、高齢社員に払う賃金は成果に対する対価というより雇用を継続するためのコストであり、そのため高齢社員を雇用することが総額人件費の膨張という問題を引き起こすことになります。つまり「定年前の賃金を減額し、そこで浮いた原資を高齢社員にあてる」ことは、働く期間が定年後に伸びたにもかかわらず、高齢社員に支払う賃金総額を一定にするという提案であり、そのことは定年後の高齢社員の働きが成果を生まないこと、あるいは成果を生むことが期待できないことを想定していることを示しています。これまで、企業は高齢社員を戦力化せざるを得ない状況にあること、戦力化するには、業務ニーズに合わせる需要サイド型の活用戦略をとり、賃金は仕事の重要度などに見合って決める必要があることを説明してきました。企業がこうした方向に進むとすれば、高齢社員の賃金と総額人件費との関係に対する見方が変わります。それは、会社が必要とする仕事に就き、貢献に見合って賃金が払われるので、高齢社員を雇用することが総額人件費の膨張という問題につながることがないからです。このようにみてくると問題の核心は、会社が必要とする仕事で活用できているのか、賃金が貢献に見合って決められているのかにあり、総額人件費の膨らむことが問題になるのは、それができていないからなのです。おわりに4これまで6回にわたって、高齢社員を戦力化するために賃金制度をどう設計するかについて説明してきました。高齢社員の活用に苦労されている会社には、それを参考にして賃金を決めてほしいと思いますが、それとともに二つのことを強調して、この連載を終えたいと思います。法律の要請に応えることに手いっぱいで、ここで示された方向で対応することはむずかしいとする企業は多いと思います。しかし、そうであっても、賃金制度の整備は長期的な観点から取り組むべきテーマであるということを忘れないでほしいと思います。ですから「とりあえず」の対応を考えるにあたっても、長期的にはどうあるべきかを考え、そこから逆算するという取組みが大切です。もう一つは、連載で示した方向は高齢社員が正社員なのか非正社員なのか、つまり従来型の定年制を前提にしているのか定年延長を前提にしているのかにかかわらないということです。高齢社員をどのように育成し活用する社員として雇用するのかを考え、それに合わせて賃金制度を設計する。これがすべての出発点です。高齢社員の

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