エルダー2020年12月号
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特別企画成立! 働き方改革関連法案エルダー41ため、高齢者に対する偏見は、自分が歳をとったときに、そのまま自分自身への評価として跳ね返ってくるのです。痛み止めの薬といわれて、成分的にはまったく効果が期待できない偽物の薬を服用しても、痛みがやわらぐプラセボ効果があるように、人の思い込みの影響は馬鹿にはできません。実際、老いに対する間違った思い込みは、私たちにさまざまな影響を及ぼします。これまでの研究から自分に対して向けられるエイジズムは、精神的健康の悪化や生活意欲の低下、記憶を含む認知機能の低下につながるだけでなく、疾患からの回復を損ない、寿命にさえ悪影響を及ぼすことがわかっています。例えば、図表1を見てください。横軸は年齢を、縦軸は記憶の成績を表しています。点線が老いに対して否定的な考えを強く持っている人たち、実線は老いに対して否定的な考えをあまり持っていない人たちです。これを見ると、60歳では記憶成績に差は見られませんが、歳を重ねるにしたがい、老いに対して否定的な考えを強く持っている人たちの記憶成績が顕著に低下しています。図表2はストレスを感じたときに分泌されるコルチゾールの量を縦軸に、横軸に最初の計測からの経過年数を表しています。老いに対して偏見を持っている人たちは、老いを肯定的にとらえる人と比べて、歳をとるにしたがってストレスが増加していることがわかります。エイジズムをなくすためには正しい知識を知ること私たちの思い込みは、普段接する情報によって形成されます。例えば、テレビなどのメディアは、低下する機能に焦点をあてる傾向があり、歳をとっても維持される、あるいは向上する機能について報じることはあまりありません。「加齢とともに機能が低下していく」という情報に何度もさらされ続けると、加齢とともに全体的に機能が低下するという認識を持ってしまうのは必然ともいえます。裏を返すと、加齢がどのような心理機能に影響し、また反対に影響しないのか、加齢にともなう変化について正しい知識を得る機会はほとんどないといえます。個人差はありますが、加齢とともにすべての記憶が低下するわけでも、高齢者の判断がいつも鈍るわけでもありません。老いに対して正しい知識を持つことは、高齢社員が自分自身に向けるエイジズムを回避し、歳をとっても活躍できるという気持ちを醸成し、仕事のパフォーマンスを高めることにつながります。また、高齢者を雇用する企業にとっても、適切な知識を持つことで高齢社員のモチベーションを高め、活躍できる環境を整えることにつながるはずです。※1  Levy, B. R., Zonderman, A. B., Slade, M. D., & Ferrucci, L. (2012). Memory shaped by age stereotypes over time. The Journals of Gerontology: Series B, 67(4), 432-436.※2  Levy, B. R., Moffat, S., Resnick, S. M., Slade, M. D., & Ferrucci, L. (2016). Buffer against cumulative stress: Positive age self-stereotypes predict lower cortisol across 30 years. GeroPsych: The Journal of Gerontopsychology and Geriatric Psychiatry, 29 (3), 141‒146.25262728293031326560707580859095100記憶成績年齢老いに対して否定的な考えを持つグループ老いに対して否定的な考えをあまり持たないグループ出典:Levy et al.(2012)※1より抜粋、一部改変図表1  老いに対する考えが記憶成績の低下に及ぼす影響40353025201510051015202530ストレスレベル(コルチゾール)最初にコルチゾールを測定してからの経過年数老いに対して否定的な考えを持つグループ老いに対して肯定的な考えを持つグループ出典:Levy et al.(2016)※2より抜粋、一部改変図表2  老いに対する肯定的・否定的な考えがストレスに及ぼす影響

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