エルダー2020年12月号
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度(終身雇用および年功序列など)から職務給的な制度(成果主義など)へ変更することを検討される企業も多くなっていますが、そこには、就業規則の変更という法的な課題が横たわっています。なお、同意の取得や労働協約による変更については、過去の掲載でも触れていますが、今回はほとんどの企業において課題となる就業規則の変更に重点を置いて説明したいと思います。職能給的な制度においては、一度習得した人の能力は失われないことを前提とした制度設計が基本思想となっており、就業規則上の明確な根拠がなければ、降格やそれにともなう減給はできないと考えられている一方で、職務給的な制度においては、職務や役割に応じた賃金の決定や変更を制度の中に明確化することが求められます。そのため、少なくとも、降格およびそれにともなう減給を行うのであれば、それらに関して根拠を新たに具体的に定める必要があるほか、賃金規程の等級表などが存在する場合にはその見直しも必要となります。就業規則の変更に関する基本的なルールは、労働契約法第10条に定められており、以下の要素を考慮して、その変更の合理性が判断されることになり、不合理と判断された場合には変更自体が無効となってしまいます。なお、変更内容の合理性のほか、就業規則が周知されることも必要です。①労働者の受ける不利益の程度②労働条件の変更の必要性③変更後の内容の相当性④労働組合等との交渉の状況⑤そのほかの事情果たして、これらの要素が、人事制度の変更にともなう就業規則の変更においては、どのように考慮されているのでしょうか。人事制度の変更が争点となった裁判例について3過去の裁判例において、年功序列型の賃金制度から成果主義の特質を有する人事制度への変更に関して、変更の合理性に関する考慮事項が比較的明確に整理された事件として、東京高裁平成18年6月22日判決(ノイズ研究所事件・控訴審)があります。重要と思われるのは、①に関する判断のなかで、従業員に対する賃金支払原資を減少させるものではないということが考慮されている点です。その後の同種事件の裁判例においても、同様の要素を考慮している事例は多くみられます。要するに、人件費カットを目的として人事制度を見直すのではなく、人件費の適正分配を目的としたものであれば、後述の経営上の必要性と相まって、合理性を維持するための重要な要素になるといえるのだろうと思われます。次に、②変更の必要性に関しては、重要な職務により有能な人材を投入し、重要性の程度に応じた処遇をするという経営上の必要性などを理由に肯定されています。この点は、人事制度を変更する企業の目的や将来目ざす組織づくりなどが合理的に説明可能であることが求められるといえるでしょう。また、③に関連して、変更後に採用される人事評価制度の内容やその合理性が検討されています。人事評価制度の合理性は、その透明性や機会の平等性などが考慮されています。成果主義的賃金制度の採用においては、いかなる成果をもって評価するのかを設定すること自体は使用者に裁量の余地はありますが、透明性が確保されなければ、労働者にとってはいかなる成果が評価されるのか分からない状態となり、制度を適切に運用していくことはできないでしょう。さらに、④に関連して、合意には至らなかったものの労働組合との団体交渉を重ねていたこと、説明会を開催していたことなどが考慮されています。労使間協議の重要性に関しては、近年の裁判例でもよくみられる傾向ですので、留意しておく必要があります。最後に、⑤に関連しては、減給となる労働者に対して2年間にわたって調整給を支給する不利益緩和措置が採用されていることなども考慮されています。紛争が生じるとすれば、不利益を受ける労働者からの訴えになりますエルダー43知っておきたい労働法AA&&Q

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