エルダー2020年12月号
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16条による解雇権濫らん用よう法理により、客観的かつ合理的な理由と社会通念上の相当性が求められることになります。高齢者の継続雇用制度においても、これらの規定が適用されることには変更はなく、継続雇用対象者だからといって、契約の終了が当然に認められるわけではありません。高齢者に対する保護3直近の裁判例で、高齢者の継続雇用に対して、契約の終了を行った事案があります(東京地裁立川支部令和2年3月13日判決)。当該事案においては、65歳をもって定年退職する旨定められていた法人において、65歳を超えて労働契約が維持されてきたところ、当該労働契約の終了に向けて就業規則を変更して、定年後の延長については承認制を採用する旨定められていました。そして、不承認の決定をくだして、労働契約を終了させたところ、これが雇止めに該当するものとして争われたという事案です。同裁判例においては、高齢者の継続雇用においても労働契約法第16条による解雇権濫用法理が適用されることを前提に、以下のような事実をふまえて、労働契約が存続すると判断しました。① 定年後、特段明示的な承認の手続きを取られないまま、労働契約が更新されていた。② 承認が得られなかったことは、労働契約を終了させる意思表示にほかならない。③ 解雇するには、客観的かつ合理的な理由と社会通念上の相当性が必要だが、その立証がなされていない。基準変更の就業規則の意味4高齢者雇用の事案とは若干異なりますが、継続雇用の基準を就業規則の変更によって行った企業における、労働契約終了についての裁判例もあります(山口地裁令和2年2月19日判決)。有期労働契約の通算雇用期間の上限について、従来は定めがなかったので、就業規則を変更して5年を上限とする旨設定し、これを適用する形で、有期労働契約を終了させたところ、当該契約の終了の効力が争われました。使用者としては、就業規則を改正することで、通算雇用期間の上限を設定したうえで、雇用契約の更新の際には、雇用契約にも上限となる期限を明記して署名押印を得ていることから、労働契約法第19条による保護の対象とはならない旨主張しました。裁判所の判断では、就業規則改正前における労働契約更新手続きが形式的なものにすぎず、その業務態度等を考慮した実質的なものではなかったことなどから、就業規則改正前の時点において、すでに反復継続して更新される合理的な期待が生じていた以上、就業規則の変更に関する説明や契約書の記載によっても当該期待が消滅したとはいえないと判断されています。また、更新基準に関しても、その判断基準が主観的な表現(「ぜひ雇用継続したい」、「雇用継続したい」、「雇用継続をためらう」、「雇用継続したくない」の4段階)が用いられているだけであることなどを理由に、客観的合理性を欠くものと判断されています。このような裁判例からすると、基準の設定を行う場合には、客観性を確保する必要があります。客観性の要素としては、手続きとしての透明性(あらかじめ更新基準の要素が明らかにされていることなど)、評価基準については主観的な表現のみではなく、客観的に数値化可能な基準を含んでいることなどが重要と考えられます。また、改正の手続きにおいても、不利益をともなう労働者に対しては、特にていねいな説明の機会を確保し、真摯な意思をもって更新されないルールに変更となる旨を理解してもらい、更新の期待を明確に打ち消すことなどが必要となります。理解が得られないことがあり得ることもふまえると、制度構築時点における対象者には経過措置として適用対象から除外するなどの配慮が必要になることもあるでしょう。エルダー45知っておきたい労働法AA&&Q

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