エルダー2020年12月号
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エルダー49えるだぁ最前線えるだぁ最前線が四十数年にわたって積み上げてきたものを一度すべて壊すことになりますよ」と話すと、社長は「かまわない」と返答したという。「いまの古い体質のまま続けていても会社に未来はない。自分には会社で働く社員とその家族の生活を守る義務がある。彼らを路頭に迷わせるわけにはいかないから、会社を生き残れる組織にしたい。変える力を持っている人が会社を中から変えて、自分にとっても働きやすく、社員にとっても働きやすい会社になれば、それは最高の姿ではないか」との社長の言葉を聞き、横澤部長は入社を決意した。このようにして、同社のテレワーク導入は、担当する横澤部長と、その取組みを背後から支援する社長との二人三脚で進められていった。横澤部長の役割は、社員の働き方を変えることで、働きやすく働きがいのある職場を実現するとともに、コストを削減し企業の業績を向上させることである。その一環として、2008年1月からテレワークをスタートさせた。テレワークを導入するためには、制度やITツールなどの整備が欠かせないが、最も重要なテレワークの実現に不可欠な社員の意識改革と業務の可視化のは、社員の理解を得ることである。いくら仕組みとしてテレワークを導入しても、仕事に対する社員の意識が変わらなければ長時間労働は改善しない。そこで、横澤部長が最初に取り組んだのが、生産性に対する意識の低い社員の意識改革だった。例えば、女性社員がほかの社員の机を拭いたりお茶をいれたりすること、仕事中の喫煙所での喫煙や無駄話など、勤務時間中に本来の業務以外のことに時間を割くことの積み重ねが、長時間労働の一因となっていた。横澤部長は、社内でおかしいと感じたことを一つひとつ見つけては社員一人ひとりと話をし、相手が納得するまで根気強く指導を続けていった。また、長時間労働の原因は仕事の進め方にもあった。図面を必要以上に時間をかけてきれいに書くなど、顧客の評価に結びつかないようなやり方が散見されたのだ。そこで横澤部長は、現場にも足を運び、社員の実際の業務を調査したうえで、業務を細かく個々の仕事に分解し、スキルマップを策定するとともに、それぞれの仕事の手順や標準時間を設定。それをもとに、個々のスキルレベルを考慮して、適切な仕事量を割り振るようにした。テレワークを実施するには、個々の社員の業務を明確にし、社員が自律的に働くことが前提となる。そのため、一人ひとりの業務を可視化していき、社員と個人面談を行いながら、テレワーク導入の下地を整えていった。「仕事に対する考え方や抱えている悩みなどは、社員一人ひとり異なります。ですから、会社の考えを一律に押しつけるのではなく、各社員の現状と将来を見据えながら、働き方を変えることが本人にとっていかにメリットがあることかを伝え、自発的に取り組めるように働きかけていきました」そして、会社の取組みを理解できた社員から、順次テレワークを導入していく形を取った。横澤部長は、社内の業務を一通り調査・把握したうえで、どのようにすれば社員がテレワークをできるかを検討した。テレワークの目的は、業務上の無駄をなくして効率化し、生産性を高めること。横澤部長がまず着目したのが、自宅・会社・現場間の移動だった。電気設備工事は、建設現場での作業が中心になる。そのため、当時は自宅からまず会社に出勤して、必要な書類などを持ったり、申し送りを行ったりした後に現場へと向かう。そして、一日現場で作業した現場事務所をサテライトオフィス化し移動にかかるコストを大幅に削減

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