エルダー2020年12月号
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2020.1252建設業界は、若年世代が減少していくなかで、ほかの会社を辞めた中高年世代が建設業に転職してきます。そういう人たちに対しては特に教えるスキルが重要になります。自分自身の10年後、15年後のキャリアを考えて、教えるスキルの重要性を訴えました」そう語る横澤部長は、ベテラン社員が実際に後輩に技術を教えているところを見ながら直接指導を行った。最初のうちは、「そんないい方でわかると思う?」、「なんでそんな上から目線で話すの?」とダメ出しの連続だった。しかし、「部下が覚えてくれなければ、あなたの評価はない。部下はお客さんなんだよ」と話すと、みな自分の役割に気づいたという。また、当初は「怒る」と「叱る」の違いを知らない社員が多かったとも話す。「『そんなんじゃだめだ』と怒るのは、部下を心配しているからなのはわかりますが、『ただ怒るだけでは相手の心には響かないから意味がないよ』といって、何がだめでどうすべきかをわかるように指導することの大切さを伝えてきました」多くの企業では、60歳を過ぎると、会社のなかでやりがいを失うケースが少なくない。また、なかには過去の経歴を引きずってしまう人もいる。そのような状態になるのを未然に防ぎ、60歳を過ぎても活躍し続けて会社に貢献してもらうためには、会社が早い時期から、シニアになってもやりがいのある仕事があることを社員に教えるべきであり、そうすれば、その目標に向けて早くからスキルを高めていくことができると横澤部長は話す。「高齢になれば、若いころと同じようには働けませんから、年齢に応じたワークスタイルにシフトしていかなければいけません。そのことを説得するのに1〜2年、新たなワークスタイルを身につけるには10年程度はかかるでしょう。その間に、どのようなワークスタイルを習得させるべきか。彼らが自分のプライドを満足させつつできる仕事が、若手の教育なのではないかと思います。その内容はもちろん、実務に結びつくものでなければなりません。そのためには、体験談を語るだけでは不十分ですので、本人がその技術をきちんと教えられるレベルになる必要があるのです」向洋電機土木では、60歳定年でその後は再雇用となるが、従来と変わらず能力を発揮できるのであれば、役職は変わらず、給与も下がることはない。現在は60歳以上の高齢社員が5人勤務しているが、いずれの社員も約10年前から横澤部長の指導を受けて教え方を習得してきたことにより、若手に技術を教える指導的なポジションで活躍している。テレワークの導入で誤解されがちなのは、モバイル端末などのツールさえあれば生産性が上がると思われていること。横澤部長は、中小企業がテレワークを成功させるためには「トップのやる気と担当者の本気度」が必要だと話す。「人は、いままでの考え方や働き方を変えることに否定的なものです。それだけに、担当者が本気になって社員一人ひとりと向き合い、テレワークの持つ意義を理解できるまで話し合うことが必要です。同時に、個々の社員の働き方の状況を把握したうえで、どのようなテレワークを可能にすれば効果が得られるかを、あらかじめ想定して導入することが重要です。そして、それらの取組みを認め、支えていくリーダーの指導力が不可欠です。入社して間もなかった私の提案が社内で導入できたのは、ひとえに社長の後押しがあったからにほかなりません」総務省『テレワーク先駆者百選』で総務大臣賞を受賞するなど、高い評価を受けている向洋電機土木。同社の取組みは、高齢者が活躍できる企業という観点からも、大いに注目される。(取材・増田忠英)テレワークを成功させるために必要なのは「トップのやる気と担当者の本気度」

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