エルダー2021年1月号
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特集高齢期まで元気に働くための「治療と仕事の両立支援」エルダー13が必要です。そのためには勤務情報を主治医、医療機関側へ報告し、仕事の内容を情報共有する必要があります。通勤形態、シフト勤務か、立ち仕事か、高所や危険な場所での作業はあるか、出張の有無、運転の有無、休憩時間、通院のための休暇は確保できるかなどに加え、収入やローン、加入している保険など確認すべき事項は多くあります。診断書・情報提供書については厚生労働省『事業場における治療と仕事の両立支援のためのガイドライン』※2、また労働者健康安全機構の『治療と仕事の両立支援コーディネーターマニュアル』※3に様式例があります(参考1・2)。また、病気のことは個人情報となりますが、職場では病気の噂が広まりやすいため、情報の取扱いには十分留意する必要があります。がんの治療法4がんの治療法には大きく分けて、手術、放射線治療、薬物療法の三つがあります。手術はがんやがんのある臓器、または浸潤※4や転移している部位も含めた切除を行います。がんの範囲が小さく内視鏡で切除可能な場合は体への負担も軽くすみます。がんの浸潤や転移が広い場合は根治手術にならないこともあります。大腸がんで直腸を温存できない場合は人工肛門となります。また、乳がんでは切除側の腕を動かしにくくなることやリンパ浮腫が生じることがあります。放射線治療は通常、月~金曜日の5日間照射し、土〜日曜日の2日間休むことを多くて6週間くり返します。副作用は照射部位によっても違いますが、皮膚の熱感、ヒリヒリ感などやけどのような症状が生じることがあります。また、倦怠感や脱毛、下痢などが生じることもあります。薬物療法は細胞障害性抗がん剤、ホルモン剤、分子標的薬、免疫チェックポイント阻害薬の投与、内服になります。それぞれのがん、進行度により治療法(プロトコール)が決められています。薬物療法では副作用が問題となります。細胞障害性抗がん剤では、嘔おう気き・嘔吐、下痢、食欲低下、口内炎、全身倦怠感、手足の痺れ、脱毛、色素沈着、貧血などが主な副作用です。ホルモン剤では、更年期障害のようなホットフラッシュ、イライラ感、抑うつ感、性器出血などが副作用として生じます。分子標的薬でも皮膚症状、肝機能障害、下痢などの副作用が生じえます。現在、薬物療法は外来で行うことが多くなっていますが、それらの副作用は自宅や職場で対処することでもあります。あらかじめどのような副作用が起きやすいか、起きたらどう対処するかを主治医に確認しておく必要があります。がんの症状より副作用に悩まされる人も多く、副作用は治療継続とともに強くなっていくこともあります。副作用は使用する薬剤によっても変わってきます。副作用の状況を見ながら、治療期間の変更や薬剤の変更が行われます。疲れやすく集中力も低下し、以前なら意識せずにできていたことができなくなっていることもあります。体力を考慮してデスクワークに変更になっても、手の痺れでパソコン操作自体がむずかしいということもあります。がんによる症状、治療の副作用を周囲に理解してもらえないと一人で抱え込み落ち込むことになります。治療の副作用に関しても職場に説明し、理解してもらう必要があります。この説明に関しても職場側へ医療機関から書類で情報提供してもらうとよいでしょう。職場での考慮事項5復職は両立支援のゴールではなく、あくまでもスタートであり、たいへんなのは復職後です。「副作用の辛さがわかってもらえない」、「以前※2 『事業場における治療と仕事の両立支援のためのガイドライン』(2020年・厚生労働省) https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/000614130.pdf※3 『治療と仕事の両立支援コーディネーターマニュアル』(2020年・労働者健康安全機構) https://www.johas.go.jp/ryoritsumodel/tabid/1013/Default.aspx※4 浸潤……がん細胞が増殖するとともに隣接する器官に広がっていくこと

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